presented by hanamura
雨や曇りの日が多く、すっきりとしない日が多いです。
まだ寒かったり、異様に暑かったりという
くり返しが続くようですね。
それでも晴れた日にはうれしくなって、
足取りも軽やかになり、
ついつい寄り道をしてしまいます。
よく見ると道端にはたんぽぽが
春を謳歌するように咲き並んでいて、
この季節を鮮やかに彩っています。
この時期は、美しい自然とふれ合うために、
ちょっと足をのばしてという方も
多いのではないでしょうか。
日本の伝統文様には、
美しい自然と豊かな四季を題材にしたものが
数多くあります。
今日はその中から「茶屋辻文様」について
お話ししましよう。
茶屋辻文様といっても、
ピンとはこない方が多いと思います。
茶屋辻文様とは、
涼やかな水辺の風景を意匠化した文様です。
その風景に配されるのは、
流水に、楼閣、
そして四季折々の草花などです。
貴族の庭園を思わせるような、
典雅な風景は、
空から眺めたように意匠化され、
見るものの心を魅了します。
上の写真の茶屋辻文様の着物には、
流水と楼閣、四季の草花文様に小鳥も配されています。
こうした風景文様の原型が考案されたのは、
江戸時代の始めごろです。
当初は、裕福な町民たちが着用した、
帷子(かたびら)とよばれる
夏の麻着物にこうした風景文様が、
「浸染め(ひたしぞめ)」により
白地に藍色であらわされていました。
「浸染め」は、「絞り染め」の一種で、
文様部分を糸や紐などで括り、
布を染液に浸す染色方法です。
その後元禄時代に
徳川家の御用達商人であった
「茶屋四朗次郎」によって
文様の際に糊を置いて染色する
「糊防染」の技法が発明され、
より精細な文様表現ができるようになり、
風景もより細かにあらわされるようになりました。
そして、この技法は「茶屋染」とよばれ、
人気を博しました。
上の写真の茶屋辻文様の名古屋帯も、
白地に染められていて、涼やかです。
当時、帷子は
「辻」ともよばれていました。
つまり、茶屋辻文様の茶屋辻というよび名は、
「茶屋染めの辻」ということに由来するのです。
後に茶屋染めの技法は、
友禅染めを誕生させます。
江戸時代の中ごろになると、
友禅染めの技法は広く知られるようになり、
色鮮やかな着物が数多くつくられました。
それによって町民の間では、
色数の少ない茶屋染めの着物の人気は
しだいに低迷していきます。
一方、武家の婦人たちの間では、
華美な友禅染めに対して、
渋く粋な茶屋染めの意匠が好まれたようで、
町民の間での人気に反して、
大奥での夏の衣服として重用されるようにもなりました。
茶屋染めが大奥で用いられるようになると
その意匠である茶屋辻文様は、
さらに微細にあらわされるようになり、
その美しさが競われました。
やがて、江戸時代が終わると、
茶屋辻文様は、大奥で重用されたことから
「格調のある文様」として
庶民たちの間にも広まっていきました。
そしてその文様は「茶屋辻文様」とよばれ、
麻の着物だけではなく、
絹の着物の意匠にも用いられるようになったのです。
自然が織り成す美の姿を捉えた茶屋辻文様には、
今も昔も変わらない自然を楽しみ、
愛しむ気持ちがあらわされているのです。
※写真の着物と名古屋帯は花邑銀座店にて取り扱っています。
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次回の更新は4月20日(火)予定です。
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