花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「蜻蛉(とんぼ)文様」について

2011-06-22 | 文様について

presented by hanamura


夏至を迎え、一年中で一番日が長い時期になりました。
梅雨の曇り空が多いため、
日の長さをあまり実感できないのですが、
梅雨晴れの日には、夜の 7 時過ぎまで空が明るく、
美しい夕暮れの雲を眺めることができます。

日の暮れかかった街を歩くことも、
これからの季節の楽しみのひとつですね。
涼を求めて川べりなどを散策する方も多いことでしょう。
河原などの水辺の光景は、
眺めているだけでも涼やかな気持ちになり、
ひとときの間、日中の暑さを忘れさせてくれます。

夏の間、水辺には人だけではなく、
よく眺めるとたくさんの虫たちが集まっています。
蚊や蝿などはご遠慮願いたいところですが、
同じ虫でも蜻蛉の姿をみかけると、
思わずうれしくなってしまいますね。

蜻蛉というと有名な童謡「赤とんぼ」のイメージや
俳句では秋の季語にもなっているので、
秋の風景を連想してしまいますが、
実際は春から秋にかけてさまざまな蜻蛉を見ることができます。

今日はこの蜻蛉(とんぼ)文様について
お話ししましょう。

蜻蛉は、古来より世界中に棲息している昆虫です。
蜻蛉の先祖は、およそ 3 億年以上前に棲息していた昆虫ともいわれ、
蜻蛉は古代の昆虫の生き残りともされています。
その種は 5,000 種にもなり、
日本にはそのうちの 200 種が棲息しています。

古くから棲息していたようで、
弥生時代の遺跡からは蜻蛉が描かれた銅鐸も出土しています。
素早く餌を捕らえる勇ましい蜻蛉の姿が崇拝され、
信仰の対象になっていたと考えられています。

古代、蜻蛉は「秋津(アキツ、アキヅ)」とよばれていました。

古代の日本では日本のことを指して
「秋津島(あきつしま)」とよんでいましたが、
この「秋津」とは、蜻蛉のことを指しています。
この名前は日本神話に登場する神武天皇が
日本を一望したときに、そのかたちが蜻蛉に似ているといったことから付けられたようです。

また、平安時代には生命の儚い蜻蛉の姿が
陽炎に例えられ「蜻蛉(かげろう)」ともよばれました。

蜻蛉(とんぼ)という名前でよばれるようになったのは、
鎌倉時代の頃です。
蜻蛉(とんぼ)の名前の由来は定かではありません。
一説には、蜻蛉が羽根を広げ飛んでいる姿が、
穂が飛んでいる光景を思わせ、
「飛ぶ穂」が「とんぼ」となったと言われています。
また、「飛ぶ棒」が「とんぼ」になったという説もあります。
いずれにしても、蜻蛉は庶民に親しみやすいよび名として、
広く定着していきました。

戦国時代になると、前にしか進まず、退かないという蜻蛉の性質から、
強い虫をあらわす「勝虫」や「勝軍虫」とも言われ、
蜻蛉の文様は縁起物として
武士に好まれ、武具や着物の文様として用いられました。

その中でも、勝負と同音の菖蒲に蜻蛉が組み合わされた文様や、
矢に蜻蛉が組み合わされた文様は、
とくに縁起がよいものとされました。



江戸時代になると、蜻蛉は縁起の良い文様としてだけではなく、
水辺の風情をあらわすものとしても
着物や帯の意匠に用いられるようになりました。
上の写真の名古屋帯は、水辺に咲き誇る撫子や萩といった草花に、
蜻蛉が飛ぶ夏の風情ある光景をあらわした絽の夏帯です。

また、江戸時代には「蜻蛉玉」という小さなガラス玉が人気を博しました。
名前の由来は、澄んだ小さな丸い玉が、蜻蛉の目を連想させることから付けられました。

蜻蛉玉は帯留めや玉かんざしにも用いられています。
小さな蜻蛉玉は夏の帯にも、
異国情緒のある更紗の帯にもとても良く合い、
装いのさりげないアクセントとして現代でも人気があります。

※写真は花邑 銀座店にてご紹介している名古屋帯です。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は6月29日(水)予定です。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2013-07-23 21:06:41
大変勉強になりました。特に私も扇子など、蜻蛉の図柄を好んで購入しております。しかしビジネスで負けることが多いです。やはり本人次第です。
文中で気になることが一つだけありました。3億万年という単位はないと思います。3億年の間違いではないでしょうか?
コメント (杉江)
2013-07-24 05:25:15
このたびは、コメントをいただき誠にありがとうございます。

また、3億万年という単位についての誤りをご指摘いただきまして、
重ねて御礼申し上げます。
早速、修正させていただきました。
ご本人様次第。おっしゃるとおりですね。
勝負の結果をどの単位でみるか、1ヶ月でみるか、あるいは1年、10年、人生全体でみるかにもよって変わってきますよね。

またのコメントをお待ちしております。

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