花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「絽」について

2009-05-26 | 絽について

presented by hanamura


梅雨入り前の蒸し暑い日がつづいています。
公園の池では、石の上で亀の親子が甲羅干しをしていました。
夏の訪れを感じる光景ですよね。



今日は、暑い夏に涼やかな「絽」についてのお話しをします。

「絽」は、薄く透き通るように織られた夏用の絹織物です。
街着から礼装まで着用が可能なので、
夏の着物や帯の中では、
最も活躍している素材でしょう。

この「絽」がはじめてつくられたのは江戸時代の頃です。
当時から同じく夏の素材として用いられていた「紗」から
織り方を変化させたものです。

その織り方はたいへん複雑で、
平織りと捩り織り(もじりおり)を
組み合わせてつくられています。

平織りとは、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が
直角になり、隙間なく織っていくことで、
ほとんどの布はこの平織りでつくられています。

一方、捩り織りとは、
経糸を隣の経糸に絡ませて隙間をつくり、
そこに緯糸を通して織っていきます。
「絽」の原型である「紗」は、
この捩り織りで織られています。

つまり、平織りと捩り織りを組み合わせると、
平織りの部分はスジができ、捩り織りの部分には隙間が生まれます。
こうして織られた「絽」は、「平絽」とよばれています。



さらに同じ「平絽」でもいくつかの種類があります。

平織り部分の緯糸の本数は
三本、五本、七本のものがあり、
この本数から「三本絽」、「五本絽」、「七本絽」と区別されています。

また、撚った糸を用いて織られたものは
「駒絽(こまろ)」と呼ばれ、
絽目が細かくシャリ感があります。

涼を求めて考え出された「絽」の生地には、
日本ならではの精巧な技術が隠されているようです。

ちなみに「絽」の帯は着物より早く、
5月の末頃から着用できるので、
暑い日にはぜひ身につけて涼を呼びたいですね。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は6月2日(火)予定です。


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龍文様について

2009-05-19 | 文様について

presented by hanamura


5月も半ばを過ぎて、
紫陽花の蕾が少しずつ大きくなっています。
梅雨入りも間近なのでしょうか。

梅雨というと雨が降り、
じめじめとして暑苦しいイメージが浮かんでしまいますね。
しかし雨は、農作物にはなくてはならない恵みでもあります。

昔の日本では稲作が盛んだったため、
雨は信仰の対象でもありました。
また、雨をもたらす雲や雷なども、
畏敬の対象として、崇められていました。
そのため、日本の伝統文様には、
雨や雷、雲などの自然現象を意匠化したものが多くみられます。
同時に、その自然の力を擬人化した聖獣も描かれてきました。

その中で今回は「龍」をモチーフにした
文様をご紹介します。

龍文様の起源は定かではないようですが、
紀元前4500年前のメソポタミア文明の古墳で出土された
印章に龍とみられる文様が用いられています。
日本では、弥生時代の古墳から
龍文様が入った銅鏡もみつかっています。

世界各国からみつかる龍文様を辿ると、
壮大な歴史地図が描けるでしょう。
もともと想像上の生物とされる龍の文様は
人々を魅了してきました。
そして、龍の文様を研究した書物などが
多く記されてきました。



とくにアジア地域では、「龍」は水を司る聖獣とされ、
上の写真にみられる雲龍文様のように、
雲や雷など、雨を表わす文様と一緒になって、
意匠化されていることが多いようです。

下の写真の龍文は、紗綾形(さやがた)が
まるで雷雨文のように意匠化されています。
中国では、この龍のように爪が3つのものは庶民の龍、
爪が5つのものは王室の龍だとされてきました。



水を司る龍は、雨や雷、雲を呼ぶ生きものです。
夏の暑さをやわらげるように、
一時の“涼”をも呼んでくれることでしょう。

●写真の龍文様の名古屋帯は花邑ウェブショップにて紹介しています。

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次回の更新は5月19日(火)予定です。


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紙布について

2009-05-12 | 紙布について

presented by hanamura


冷たい雨の日がつづいていたかと思うと、
ここ数日間は、夏本番のような暑い日がつづいています。

暑くなってきたためでしょうか。
装いも涼やかな夏仕様のものを選んでしまいます。

とくに着物の場合は、絽や紗、麻など、
ほかの季節にはみることができないめずらしい素材のものが多くあり、
見た目にも涼やかなので目がいってしまいます。

そこで、今回はそうした夏物素材の中から
「紙布(しふ)]という織布をご紹介します。

紙布は、その名前からも想像できるとおり、
「紙」が原料になっています。
和紙の産地として有名な宮城県の白石市で
江戸時代の初期頃につくられたのがはじまりです。

和紙を細かく裂いてつないだものが「紙糸(かみいと)」になります。
この「紙糸」を織ったのが「紙布」になります。
白石市では、この紙布が和紙と同様に特産品となり、
やがて江戸幕府への献上品になりました。



上の写真は、明治時代につくられたものです。
こちらは「木綿紙布(もめんじふ)」とよばれる、
緯糸に紙糸、経糸に木綿糸を用いて織り上げたものです。

また、経糸に絹糸が使われている「絹紙布」もあります。

「紙布」は、和紙を原料としていながらも、
水に強く、とてもじょうぶな点も魅力のひとつです。
もちろん紙が原料なので、
さらりとした手触りの質感は夏にぴったりです。

しかし、この紙布も現代では少量しか生産がされていないので、
たいへん稀少なものになっており、
とても価値のある布とされています。
ご覧になったことがない方は、この機会をお見逃しなく。

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次回の更新は5月19日(火)予定です。


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花邑日記-5月5日(あめ)-

2009-05-05 | 花邑日記

presented by hanamura


新緑が美しい季節になりました。
朝晩の冷え込みも少しずつなくなり、
陽射しもだんだん強くなってきて、
日中に外を歩いていると、
汗ばんでしまうときもありますね。

そこで今日は、これからの季節にとても重宝できる、
「保多織(ぼたおり)」という綿織物についてお話しします。

「保多織(ぼたおり)」は、
香川県の高松で織られている伝統工芸品の綿織物です。

特殊な技法で織られるその生地の表面には凹凸があり、
吸収性と発散性に優れているので、
さらりとした肌触りがとても良いものです。



また、たいへん丈夫な点も「保多織」の魅力のひとつです。
「保多織」という名前も「多年を保つ」ことから付けられたようです。

保多織の歴史は古く、江戸時代のはじめに遡ります。
当時、香川県高松の領主だった松平頼重が、
京都の織り職人を高松まで招いて考案しました。

とても着心地の良い「保多織」は珍重されたようで、
その後、江戸幕府への献上品にもなり、
上級武士の間で広く着用されました。

ちなみに当時の「保多織」は絹を素材にしていましたが、
明治時代に入るとその素材が木綿に変わり、
現在のような「保多織」になったのです。

現在では、その吸収性の良さから手ぬぐいにも多く用いられるようです。
もちろん着物の生地にも使われていて、
江戸時代と同様に着心地の良さで高い評価を得ています。

ただいま花邑でもこの「保多織」を裏地に使った帯をご紹介しています。
表地は明治時代につくられた貴重な紙布と木綿の交織布です。
表地の素晴らしさはもちろんのことですが、
裏地に保多織という贅沢なつくりは、
これぞまさに粋という感じですね。

くわしくは、花邑のショッピングページをご覧ください。

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次回の更新は5月12日(火)予定です。


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