花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「宝尽くし文様」について

2009-12-22 | 文様について

presented by hanamura


12月半ばを過ぎて、
お正月まで残すところわずかになりました。
デパートの食品売り場や、
近所のスーパーでは、
黒豆や数の子、紅白のかまぼこ、伊達巻き、
栗金団、昆布巻き、海老、鯛などの
おせち用の食品がずらりと並び、見るのも華やかです。

このおせち料理の一品一品には、
子孫繁栄や出世祈願、長寿などの
意味合いが込められています。
美味しく食べて、福をももたらすという
なんとも幸せいっぱいの料理ですね。

お正月にはおせち料理をはじめ、
「今年も良い年でありますように。」という
願いを込めて縁起をかつぐことが多いですね。
吉祥文様のお着物を
お召になられる方も多いのではないでしょうか。

昔から人々は福がもたらされるようにと願い、
吉祥文様をさまざまな場面で身にまとい、
身近に置いてきました。
そのため、吉祥文様は日本の伝統文様に
多く残され、馴染み深いものも多くあります。

今日は、その吉祥文様を寄せ集めて意匠化した
「宝尽くし文様」についてお話します。
「宝尽くし文様」は、縁起が良いとされる品を
集めて意匠化したものです。



宝尽くし文様も由来は古代の中国にあります。
古代の中国では、珊瑚や銭など、
当時から珍重されていた物を集めて意匠化したものを
「雑宝(ざっぽう)」とよび、
富や権力を得ることができる文様とされていました。

また、仏教の中で用いられていた法具などを
意匠化したものを「八宝」とよび、
前回お話した神仙思想に登場する
八人の仙人の持ち物を意匠化し、
不老長寿を表したものを
「暗八仙(あんはっせん)」とよんでいました。

こうした吉祥文様が日本にもたらされたのは室町時代です。
そして、中国では「雑宝」「八宝」「暗八仙」
のように分別されていたものが、
日本では一緒になり、一つの文様となりました。
それが宝尽くし文様とよばれているものです。

その宝尽くし文様に用いられる宝の中で、
よく知られているものは、
欲しいものが手に入る「打出の小槌」、
天狗が持っていった「隠れ蓑(かくれみの)」、
お経の巻物である「宝巻(ほうかん)」、
お守りやお金を入れる「巾着」、
長寿をねがう「熨斗(のし)」
希少価値のあった香料のグローブを意匠化した「丁子(ちょうじ)」などですが、
ときには鶴や亀も加わることもあり、
つくる人や地域によってさまざまな吉祥文様が組み合わされ、
またその組み合わせ方も時と場所によって変化しました。

まるでおせち料理のように、
吉祥をあらわすものが盛りだくさんに集められ、
まとめられた宝尽くし文様は、
「おめでたいものならばすべて良し」という
良い意味でのゆるやかさが感じられます。
八百万の神さまが居らっしゃる日本ならではの文様でもあるのでしょう。

さて、今年の「花邑の帯あそび」は、今日で最後になりました。
今年1年、拙い文章にお付き合いただいて、ありがとうございました。

来年も「帯のアトリエ 花邑」ともども
どうぞよろしくお願い申し上げます。

※写真の和更紗の宝尽くし段文様名古屋帯は花邑銀座店にて取り扱っています。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は2010年1月12日(火)予定です。


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「松文様」について

2009-12-15 | 文様について

presented by hanamura


12月半ばを過ぎて、いよいよ年の瀬です。

最近では、冬の間イルミネーションを付けている家が
とても増えました。
それにつれてイルミネーションも
いろいろな種類が売られているようです。
どの家もさまざまに趣向を凝らしていて、
年の瀬の町を盛り上げてくれています。
見ているだけでもなんだかワクワクしてきますね。

クリスマスの飾りといえば、
やはりクリスマスツリーでしょう。

クリスマスツリーに使われる樹木は、
もみの木、松、柊(ひいらぎ)、月桂樹(げっけいじゅ)など、
国によってさまざまですが、
そのどれもが一年中木の葉が枯れない常緑樹です。

クリスマスの発祥の地である西洋では、
寒い冬にも枯れない常緑樹は、
永遠の命を保つ象徴とされています。

古来、12月中旬に行われていた冬至が終わり、
太陽の復活を祝う祭では、
常緑樹を健康と豊作をもたらすものとして、
家の中に飾りました。

やがてキリスト教が普及するようになると、
そういった古くからの風習とクリスマスとが融合し、
そうした常緑樹にさまざまな飾りを付けて、
キリストの誕生を祝福したことが
クリスマスツリーのはじまりとされています。

さて、このクリスマスツリーに使われる樹木のうち、
松の木は、日本でも生命力の象徴とされています。

松の木の梢には神が宿るとされ、
神を迎え入れる依代(よりしろ)として、
お正月になるとその松の飾りを家の門の前に置きます。

また松は、長寿と子孫繁栄を表す吉祥文様として
着物や帯などの装飾品や、屏風などの調度品に
数多く用いられてきました。

もともと、松の木を吉祥文様としたのは、
古代の中国です。
冬の寒さに耐える松は、
中国では生命力を象徴する以外にも、
松と同様に寒さに強い竹や梅とともに
逆境にあっても変わることなく節操を守るとして
多くの絵画のモチーフとしても扱われました。

そうした思想が日本にもたらされたのは平安時代のようです。
日本では吉祥文様というだけではなく、
そのかたちの面白さから、
実にさまざまな意匠の松文様が考案されました。



芽生えて間もない若い松の姿を表した若松文様、
長い間風雪に耐えた長寿の松を表した老松(おいまつ)文様、
松の木全体ではなく、松の葉のみを文様にした松葉文様、
松ぼっくりを文様にした松笠文様、
そして上の写真のように松葉を笠のようにして表した笠松文様など、
松の木が隅から隅まで文様化されています。

ちなみに、松は家紋のモチーフにも多く用いられ、
その数は80種類にものぼるほどです。

さて、クリスマスが終わるといよいよお正月ですね。
お正月休みを“まつ”のみです。

おあとがよろしいようで。

※写真の松文様の紅型名古屋帯は花邑銀座店にて取り扱っています。

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次回の更新は12月22日(火)予定です。


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「鶴文様」について

2009-12-08 | 文様について

presented by hanamura


そろそろ年賀状の作成で頭を悩まされている方も
多いのではないでしょうか。
来年の干支は寅ですが、
吉祥絵柄ということで「鶴」や「亀」の絵柄を
年賀状にお使いの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

とくに鶴は、
「鶴は千年、亀は万年」というフレーズや
日本昔ばなしの「鶴の恩返し」、
折り紙でつくる折り鶴などで
馴染み深い鳥のひとつですね。
もちろん着物や帯においても
よく見受けられます。

着物や帯に文様として配されるものの多くは、
吉祥文様として古くから愛されてきたものが多いのですが、
鶴も福や長寿の象徴とされ、
着物や帯だけでなく、さまざまな品に用いられてきました。
お正月や結婚式などのお祝いの席で着用する着物や帯には、
ほんとうに数多く鶴の文様が見られます。

鶴が福をもたらす霊鳥となったのは、
古代の中国においてです。

紀元前11000年ごろの周王朝の時代に
中国では世俗をけがれたものとして、
世を捨てて隠棲する人々が出現するようになりました。
これらの人々は単に政治的なものに嫌気が差して、
あるいは政争に破れたことで、
山にこもり世俗と自身を断絶させていました。

その「隠遁思想」と道教に端を発し、
山にこもって修行を行い、
倫理や道徳の実践を通じて徳を積むことで
福禄と長生きを得ようとする「神仙思想」が結びつきました。

よく中国の物語のなかで
とてつもない超人的な能力を持った老人を指して
「仙人」という表現がされますが、
この「仙人」は、神仙思想において不老不死の賢者として登場したのです。

もともと中国では、
広い大地に細く長い足で凛と立つ美しい鶴の姿が、
気高い賢者の象徴とされていました。

神仙思想が起こってからは
くわえて空想上の「仙人」たちが空を飛ぶ際に乗るものとしても
扱われるようになります。

姿形が清らかで孤高な鳥というだけではなく、
その寿命が他の動物より長寿であることからも、
不老不死の仙人と結びついたようです。

日本にはこの中国の思想が
平安時代にもたらされました。
そして、着物などをはじめとして
さまざまな装飾品や調度品に表されるようになりました。

しかし日本では、実際のところ、
鶴はカラスや雀のように、
各地で頻繁に見かけるということはありません。

野生の鶴は北海道の釧路湿原に生息するものと、
鹿児島県に飛来するものが主です。

その鶴たちも例にもれず、
生息数は激減しているとのこと。
ほんとうに空想上の鳥となってしまわなければ
よいのですが。



ちなみにいま花邑には
紅型の鶴たちがいます。
こちらはいまのところいつでもご覧になれますので、
よろしければどうぞ。

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次回の更新は12月15日(火)予定です。


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