presented by hanamura
「へら」について
「へら」は、布に「しるし」をつけるための道具として、
古くから裁縫のときに用いられてきました。
この「へら」の先は薄く、尖っています。
「へら」の先を布に押しあてると、布の繊維が圧力でねむるため、
表面に「てかり」が生じます。
この「てかり」が「しるし」になるのです。
しかし、「チャコ」の登場により
「へら」の出番は少なくなっています。
おうちの裁縫道具箱の中で眠ったままになっている「へら」も
多いのではないでしょうか。
昔の「へら」は、象牙からつくられていました。
しかし、現在では、象牙の「へら」は手に入りにくく、
とても高価なものになっています。
そのため、現在販売されているものの多くは、
牛骨からつくられています。
一方、「チャコ」は、みなさんもご存じのとおり、
「チョーク」からできています。
現在では、よく知られている三角形のものだけではなく、
ペンシルタイプのものや、水に溶けるものまでさまざまにあります。
また、その色も赤や青など、それこそ色々あって選ぶことができます。
「チャコ」は「へら」にくらべてその種類や形が豊富ですよね。
これでは、「へら」の登場がますます減ってしまいそうです。
しかし、帯の仕立てにおいては、現在でも「へら」が欠かせません。
帯の仕立ての中でこの「へら」が活躍するのは、
仕立て上がりの帯巾を測り、帯反に線をひくときです。
帯反に線をひく作業の前には、2枚の帯反を合わせて
「しろも」※1で仕付けをしておきます。
仕付けをしたら、帯反を縦にして、仕立て台の上に置きます。
帯反の柄が美しく見えるように配置を考え、
仕立てる帯の巾を1尺差しの鯨尺※2で測っていきます。
鯨尺はねかせず、布に対して垂直に置いて巾を測ります。
帯反の素材によっては、帯巾より2厘から5厘ほど多めに巾を測ります。
そして測った帯巾の「しるし」をつけます。
この「しるし」をつけるときに「へら」を使います。
さらに、最初の「しるし」から3寸ほど上、6寸ほど上の箇所にも
同じように「へら」で「しるし」をつけます。
3箇所の「しるし」を鯨尺でつないだら、線を引きます。
この線を引く作業にも「へら」を使います。
線を引く作業を下から上へと繰り返し、
帯反に長い線を引いていきます。
そののちに、この「へら」でつけた線より5厘下を、
絹糸で本縫いします。
そして、その線に沿って帯反を内側に手折りします。
折り終えたら、折った部分にアイロンをかけ、
しっかりと「折りめ」をつけます。
帯反と帯芯を綴じていく作業では、
この「折りめ」の線と帯芯のはしを合わせて縫います。
「折りめ」が線よりずれていると、
帯芯の巾と合わなくなってしまい、
仕立てあがった帯は歪んだものになってしまいます。
「へら」で引かれた線は、圧力によって「折りくせ」もついています。
そのため、「へら」で引いた線のとおりに折れやすくなり、
ずれることなく、きれいな「折りめ」をつけることができるのです。
「へら」は線をひくと同時に、「折りくせ」をつける役目もしているのです。
「チャコ」では「しるし」をつけることはできますが、
「折りくせ」をつけることはできませんよね。
帯の仕立ておいては、「へら」はなくてはならない大切なものなのです。
「へら」の先を布に押しあて、
適度な力でまっすぐに線を引いていく作業は、
こちらの背筋までもがしゃんとまっすぐになるようで、
とても心地のよいものです。
たとえ「チャコ」のように種類が豊富ではなくても、
「へら」は、「和」や「職人」というものの精神性には
ぴったりとくる道具なのかもしれません。
きっとこの先も仕立ての良い帯をつくるために、
「へら」は、いつまでも眠ることなく活用されていくことでしょう。
※1.3月18日更新のブログ「糸について」を参照してください。
※2.2月5日更新のブログ「鯨尺について」を参照してください。
花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は4月1日(火)予定です。
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