presented by hanamura ginza
啓蟄(けいちつ)迎え、
寒さの中にも、春の気配を感じる日が多くなってきました。
陽射しも春めいて、
少し前まで、道の端に塊となっていた雪もすっかり溶けました。
梅の花が見ごろを迎えた地域も多く、
各地で行われている梅祭りには、
春の香りを楽しみに、大勢の人々が訪れているようです。
また、桜の開花予報もだされました。
梅や桜のように、
季節限定の花を観賞するのも風情がありますが、
旬の食材をあじわうのも、
季節を楽しむ方法のひとつです。
「春の味覚」といえば、
蕗の薹(ふきのとう)や、せり、菜の花、蕨などの山菜が多く思い浮かびますね。
こういった山菜を口にすると、
口の中に独特の苦味が広がります。
この苦味には好き嫌いがあるようですが、
苦味が、冬の間に縮こまっていた身体を目覚めさせ、
新陳代謝を促進すると効果があるようです。
今日、お話しする「土筆(ツクシ)」も
苦味こそが身上といえる春の山菜のひとつですが、
かわいらしい姿から「つくしんぼう」とも呼ばれ、
俳句の季語にも用いられてきました。
ツクシは、初夏から夏にかけて葉を繁らす「スギナ」の胞子茎で、
川沿いや野原などに生えます。
スギナは、シダ植物の一種で、
刈り取っても生えてくる強い生命力をもっています。
冬になると、地表にでた葉は枯れてしまいますが、
土の中では根が生きていて、
春がやってくると、胞子をつける茎が地面から顔をだします。
この茎を「ツクシ」と呼んでいます。
ツクシ(スギナ)は、世界各地に自生している植物です。
ミネラルやカルシウムが豊富に含まれているため、
薬用などに用いる国もありますが、
食用として楽しむのは日本だけのようです。
平安時代に記された「源氏物語」の「早蕨」の巻には、
父も姉も亡くした中君の元へ
父の師である宇治山の阿闍梨より
蕨やツクシが手紙と一緒に届けられ、
中君が阿闍梨の心使いに涙を流す場面が書かれています。
ツクシが、いつの頃から食べられるようになったかは
定かではありませんが、
源氏物語が書かれたころには、
春の味覚として定着していたことが分かります。
また、この源氏物語では、ツクシのことを「ツクツクシ」と呼んでいます。
この「ツクツクシ」は、「突く突くし」とあらわし、
突き伸びることを意味しているといわれ、
ツクシという名前の由来のひとつとされています。
ちなみに、漢字で「土筆」とあらわされるのは、
土に刺した筆のような姿に由来しているようです。
江戸時代の頃には、
春になると、ツクシを販売する「土筆売り」がいたようで、
俳句にも春をあらわす光景として、
土筆売りが登場する作品がいくつか見受けられます。
上の写真の名古屋帯は、
大正~昭和初期につくられた絹布からお仕立て替えしたものです。
破れ地紙に、ツクシとスミレなどの春の野花があらわされています。
つんと伸びたツクシの絵図がかわいらしく、
おもわず微笑んでしまいますね。
朽ちて破れた地紙に配された野花の意匠からは、
過ぎ去っていく季節の儚さも感じられます。
※上の写真の名古屋帯は「花の帯展」でご紹介した商品です。
●花邑 銀座店のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は 3 月 20 日(木)予定です。
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