花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「業平菱(なりひらびし)文様」について

2014-04-24 | 文様について

presented by hanamura ginza


まもなく 5 月。
風に揺れてすいすいと泳ぐ鯉のぼりが
新緑の合い間に見え隠れしています。
初夏の陽射しに照らされた若葉が目に眩しいですね。
すっかり葉桜となった桜をみると、
少し前までは、満開だった桜景色がうそのように感じられます。
また、道端で鮮やかな黄色い花を咲かせていたタンポポも、
白い綿毛へと姿を変えています。

春から初夏にかけたこの季節は、
桜やタンポポ、藤や百合、杜若や紫陽花などの花々が
バトンを渡すように順に咲いていきます。
それらの花々を眺めていると、
一層季節の移ろいが感じられるものです。

花は、遠い昔から季節感をあらわすものとして、
和歌や俳句などに多く登場しますが、
これからの季節といえば、杜若ですね。

杜若を題材にした作品といえば、
「伊勢物語」の八つ橋の場面で詠まれた
「唐衣着つつなれにし妻しあれば
はるばる来ぬる旅をしぞ思ふ」
(着馴れた唐衣のように添い馴れた妻が都にいるからこそ、
はるばるきた旅路に思いを馳せる。)
が有名です。

この和歌は、
か  唐衣
き  着つつなれにし
つ  妻しあれば
ば  はるばる来ぬる
た  旅をしぞ思ふ

というように、「折句(おりく)」という言葉遊びにもなっています。

古代の人々は、杜若と聞くと
「伊勢物語」の八つ橋の場面を連想したといわれるほど、
有名な和歌です。

「伊勢物語」は、平安時代初期に書かかれた歌物語で、
「昔男」とよばれる主人公の生涯を中心に
物語が構成されています。

着物の意匠をはじめ、
調度品や絵巻物などには
伊勢物語の一場面や、
和歌を題材にしたものが多く見られ、
古くから日本文化のなかで
人気のあったことがうかがえます。

主人公の「昔男」のモデルについては
正確には分からないようですが、
古くから「在原業平(ありはらのなりひら)」ではないか
と言われてきました。

在原業平は平安時代初期の貴族で、
平城天皇(へいぜいてんのう)の孫にあたります。
和歌に親しみ、和歌の名人を選んだ「六歌仙」や「三十六歌仙」に
その名前を見ることができます。

百人一首の中にも、
「ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くゝるとは 」
という和歌が選ばれているので、
在原業平を知らなくても、
この和歌を聞いたことがある方は多いでしょう。

「伊勢物語」の主人公と目されるのは、
在原業平が和歌を得意としていたことはもちろん、
色男として有名だったこともあります。
昔の人々は、在原業平を色男の代名詞としても用いていたようです。

さて、この在原業平の名前がついた
「業平菱(なりひらびし)」という菱文様があります。
業平菱は、三重襷(みえだすき)という菱文様のなかに
四つ菱を入れたもので、有職文様※のひとつです。
この菱文様を在原業平が好んで用いたことから付けられた名前のようですが、
「業平」という名前がつくだけでも、雅な印象がします。



上の写真は、大正~昭和初期ごろにつくられた丸帯からお仕立て替えした名古屋帯です。
檜扇と御所車、笛などの平安時代を象徴する器物に四季の草花が配され、
その草花の背景に業平菱文様があらわされています。
このように業平菱は、
平安時代の煌びやかな文化をあらわすもののひとつとして
描かれることが多いようです。


上の写真の「扇に御所車と草花文様 染めに手刺繍 名古屋帯」は花邑 銀座店でご紹介中の商品です。

●花邑 銀座店のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は 5 月 8 日(木)予定です。
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