花邑の帯あそび
1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…
 




presented by hanamura


若葉が柔らかな日ざしを浴びて輝く、
気持ちのよい5月末の水曜日。
鶴川にある染織作家さんの工房を訪ねました。
ここ2年半ぐらい懇意にしていただいている
中野みどりさんの工房です。

中野みどりさんは、紬を専門としている作家さんです。
1977年に宗廣力三(※1)さんに師事され、
独立してからも紬にこだわり続け、
30年以上も真摯に紬だけをつくり続けている方です。

中野さんの作品は各方面で評価されていて、
近年では立松和平(※2)さんが書かれた
「染めと織りと祈り」(アスペクト刊)にも
紹介されたりしています。

以前から、中野さんが織った紬を実際に拝見できたら…
と、思っていたところ、
丁度、この度ご自身の工房で展示会を開かれる
ということを伺ったので、
この機会にと思い、鶴川まで足を運びました。

中野さんの工房の名前は「櫻工房」といいます。
「櫻工房」は、小田急線の「鶴川」駅から少し離れた、
緑が多く、風どおしの良い閑静な住宅地にありました。

「櫻工房」と書かれた表札の下の呼び鈴を鳴らすと、
中野さんが、自身で織りあげた美しい紬の着物を着て、
出迎えてくださいました。



着物姿がごく自然に感じられる中野さんの後をついて、
さっそく工房の中に入っていくと、
そこにはため息のでるような美しい紬が
いくつも展示されていました。
中野さんのつくられる紬は、
草木染めされた絹糸の質感と深味のある色、風合いが織りなす
やさしい雰囲気を特徴としています。
すべてが絶妙に調和していて、
それはまるで自然がつくりだす美しい景色のようです。

草花や木、葉、山や空、海など、
美しい自然の景色が、さまざまな美しさを持っているように、
中野さんの作品も豊かな美を持っています。
色や質感の異なる数種類の糸で織り上げられているため、
無地のものであっても豊かな色や風合いを持っているのです。

織り合わされた数種類の糸をじっくりと見てみると、
中野さんが自然のつくりだす糸や色に対して、
いかに敬意を払って接しているのかがよく分かります。

「経、緯に節糸や、真綿紬糸を使って、糸の嵩高性を重視し、
数種類の糸を混ぜて織ることで立体性を出し風や体温を生かす―」
と、中野さんは話されました。

中野さんの作品は、“身にまとったとき”に
そのよさがいっそうよくわかります。
中野さんの紬は、
“寒いときには体温を保温し、暑いときには風を通す”
ようになっています。
その秘密は、どうやら糸のつくりにあるようです。
素材として選び抜いた糸で、身にまとう人に思いを馳せつつ、
祈りに似た気持ちも込めながら、織りあげていくのでしょう。
実際に中野さんの紬でつくられた単衣の着物を身につけると、
このままずっと着ていたくなるような心地よさを感じます。

中野さんの作品のように、
質の良い紬をつくるためにはたいへんな手間と労力を必要とします。
そのため、着尺分の長さであれば
「1年間では6~7反程度しかつくれない」
ということです。

しかし、手間と労力をかけ、誠実につくるからこそ、
中野さんの紬には豊かな美しさがあるのでしょう。
均質な糸でつくられた紬が数多く出回る現在、
誠実に質の良い紬を織りつづけていくことは、
繊細な技術と強い信念がなくてはできません。

中野さんは、手にした糸を眺めながら、
「地味でなかなか陽の当たらない世界ですが、
これから先もずっとつづけていきたいと思っています」
と、やさしい眼差しで話されていました。

中野さんの作品のような質の良い紬をつくり、残していくことは
未来に向けた大事な義務なのではないだろうか―。
そう考えながら、「櫻工房」を後にしました。


●中野みどりさんの紬は、
「かたち21」のウェブサイトに掲載されています。
詳しくは、そちらをご覧ください。
「かたち21」
http://homepage2.nifty.com/katachi/nakano.htm

(※1)宗廣力三(むねひろ・りきぞう)
1914年岐阜県生まれ。染織作家。地元の手紬の復興、縞や格子に絣を組み合わせた
幾何学文様、「どぼんこ染」というぼかしの濃淡を生かした独特の作風などで知られる。
1982年に国の重要無形文化財技術保持者(=人間国宝)に認定された。

(※2)立松和平(たてまつ・わへい)
1947年栃木県生まれ。作家。1980年に「遠雷」で野間文芸新人賞、1997年に『毒―
―風聞・田中正造』で毎日出版文化賞を受賞。
2007年に『道元禅師』(上・下)で第35回泉鏡花文学賞受賞。著書多数。

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次回の更新は6月17日(火)予定です。


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