presented by hanamura ginza
まもなく 7 月ですね。
東京では、まだ梅雨の真っ只中ですが、
梅雨の合間の晴れの日も少しずつ増えています。
沖縄では、一足早く梅雨明けが発表され、
本格的な夏がはじまろうとしています。
7 月は、旧暦の呼び名で「文月」とも呼びますね。
「文月」という名前は、
七夕の日に短冊に詩を書いたり、
7 月の夜に書物を風にあてる風習があったことから
「文」に縁のある月という意味合いで付けられたようです。
また、稲の穂が含む月なので
「含み月」「穂含み月」から「ふみづき」となったという解釈もあります。
いずれにしても、旧暦の呼び名には、
その月の特徴がよくあらわされているものが多く、
現在のような数字だけのよび名が味気なくも思えます。
それぞれの月には旧暦以外にも別のよび名があります。
7 月だけでも「親月(おやづき)」、「七夜月(ななよづき)」
「秋の初月(あきのはづき)」、「新秋(しんしゅう)」など
13 個もの別称があります。
今日お話しする「女郎花(おみなえし)」も、
そのなかのひとつで、
7 月は「女郎花月(おみなえしづき)」とよばれることもあります。
女郎花とは、
ひょろりと伸びた高い茎の上に、
たくさんの黄色の小花が傘のように付いた花です。
開花時季は7月上旬から9月末ぐらいと長く、
ちょうど今ぐらいの時期から山野の日なたに
ひょろりと咲いたその姿を見ることができます。
女郎花は、日本や東アジアで広く自生していますが、
日本がその原産地といわれています。
そのため、古来より人々に親しまれ、
その根は、漢方としても用いられました。
広く知られた女郎花は、
着物や調度品の意匠にも文様として多く見られます。
奈良時代に編纂された『万葉集』には
この女郎花を詠んだものが多くあり、
山上憶良は女郎花を
秋の七草のひとつとして称えました。
女郎花は、平安時代に書かれた
『源氏物語』や『枕草子』にも登場します。
当時の貴族たちの間では、
女郎花の歌を詠み合い、優劣を競う
「女郎花合(おみなえしあわせ)」も行われました。
「女郎花」というよび名がつけられたのも平安時代ですが、
その名前の由来には現在 2 つの解釈があります。
1 つ目の解釈は、
「おみな」は女のことを指し、
「へし」は「圧」を指すとして、
「美女を圧する美しさをもつ花」
との意味合いが込められているというものです。
2 つ目の解釈は、
黄色くつぶつぶした花を粟飯に例え、
「女飯」とよんだことがのちに
「おみなえし」となったというものです。
これは当時、もち米で炊く白いごはんを「男飯」とよんだのに対し、
粟(あわ)ごはん のことを「女飯」とよんだことに由来しています。
ちなみに、女郎花には白い花を付けるものもあり、
この花は「男郎花(おとこえし)」とよばれています。
女郎花が文様化されたのもこの時代です。
当時、秋の七草をモチーフとした
秋草の文様が人気となりましたが、
そのなかにこの女郎花も描かれました。
能謡にも『女郎花(おみなめし)』という演目があります。
その内容は、男に裏切られたと思い込んだ女が川に身を投げ、
駆けつけた男が泣く泣くその遺体を葬ると
そこから女郎花が美しく咲き出し、
男がその花に触れようとすると、
花が逃げるように背いてしまうため、
それを見て男は女が自分を許していないからと思い、
自らも川に身を投じて死んでしまうというものです。
女郎花には、この能謡にでてくる女のように
かよわいイメージがあったようで、
松尾芭蕉も女郎花を
「ひょろひょろと猶(なお)露けしや女郎花」
(ひょろひょろと今にも倒れそうな姿は、露がかかるとなお弱々しく潤しい女郎花)
と詠っています。
着物の意匠でも、そういった女郎花の佇まいをあらわしたものが多く、
他の花を引き立たせるように描かれています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/f9/46c18271b104f45e123666f5a99b691e.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/5d/0db7ee684929bd302825df31ce74885c.jpg)
上の写真は昭和初期頃につくられた帯地をお仕立て直しした名古屋帯です。
菊や萩、桔梗などの秋草とともに、
女郎花があらわされていますが、
こちらも、他の花の背後に隠れるように、
女郎花が配されています。
けして派手ではなく、華やかではないものの、
可憐な花をつけ、風にそよぐその様子からは、
侘び錆びに通じる和の風情が感じられます。
青い紫陽花の花が咲き終わり、
黄色い女郎花が咲くようになると、
本格的な夏がはじまります。
七夕の頃には、
ひょろりと咲いた女郎花を見ることができるでしょう。
※上の写真の「生成り色地 垣根に秋草文 絽 名古屋帯 」は花邑銀座店でご紹介している商品です。
花邑 銀座店のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は 7 月 5 日(木)予定です。
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