花邑の帯あそび
1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…
 




presented by hanamura


立春を過ぎたのにもかかわらず、
ここ東京では、春が遠ざかっているのでは?
と思うような寒い日が続いています。
暖かな春が待ち遠しいですね。

さて、前回の花邑の帯あそびでは、
「針供養」についてお話しをしました。
針供養では、使用できなくなった針を
お豆腐や蒟蒻に刺して、針に感謝します。
それは、日頃硬いものばかりを刺している針を
ねぎらうという意味があります。

一方、現在使用している針はというと、
当然、針山(針刺し)に刺しますね。
今日は、この針山についてお話しします。

針がちらばないように、
保管しておくための針山。
この針山には
さまざまな種類があります。

小さな陶器が土台になった針山、
縮緬を花のように繋いだ針山、
端にお人形がついた針山、
そして動物のかたちになった針山など、
眺めているだけでも楽しくなってしまうような
可愛らしいものがたくさんあります。
針山は、まるで裁縫箱に咲く花や、
マスコットのようです。



市販されているものだけではありません。
手づくりの針山をお使いの方もいるでしょう。
私も、職業柄手づくりの針山をいくつか
いただいているのですが、
そのどれもが可愛らしくて、
裁縫箱を開けるたびに心が和みます。

針山は、日本だけではなく
世界各国でも用いられています。
西洋では昔、
「娘は針仕事が得意です。」というアピールをするため、
針山を玄関に飾った家が多かったようです。
そのため、西洋アンティークを扱うお店では、
時としてとても凝ったつくりの針山が置かれている場合があります。

さて、この針山の中身ですが、
市販されているものには
綿が使用されているものが多いようですが、
その他にもさまざまなものが
その材料になります。

コーヒーのかすを乾燥させたものや、
ゴマが混ざっている場合もあります。
そして、さらには髪の毛を詰めると良いともいわれています。

いずれの素材も、適度に油分を含んでいるものです。
針にその油分がなじむと、針の滑りが良くなります。

時代劇などで、繕いものをしているおかみさんが
時折結い髪にチクチクと針を刺しているシーンがありますが、
針山の中の髪の毛も同じ理由ですね。

髪をとかす際などにでた抜け毛を丸めて保存して、
それを絹やウールなどの生地に詰めて
針山をつくると良いそうです。

ただ髪の毛をつかって針山をつくるときには、
しっかり縫い込んでいないと
髪の毛がぴんぴんと出てきてしまい、
ちょっとしたホラーになってしまうので、
注意が必要ですね。

針山の中身を包むためのものには、
ウール、フェルト、絹、などの
たんぱく質を含んでいるものの方が
針が長持ちするようです。
日本は湿気が多いので、
木綿などでは針が錆びやすくなってしまうのです。

大切な針のお家である針山には、
やっぱり針に対する気づかいが
いっぱいつまっているんですね。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は2月23日(火)予定です。


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「押し板」について

帯仕立ての道具についてのお話は、
今回をもって最後となります。
そして、今回のお話に登場する道具も、
帯の仕立ての最後に用いられるものです。

それでは、その帯の仕立てのおわりに使われる道具、
「押し板」についてお話ししていきましょう。



帯の仕立てでは、帯のかたちがひととおり完成したあとで
「仕上げ」の作業をしていきます。
「仕上げ」とは、帯にアイロンをかける作業のことです。
帯の上にあて布を敷いてから、霧吹きをかけます。
そして、帯の表側と裏側を丹念にアイロンがけしていきます。

また、この「仕上げ」では、アイロンがけと同時に
帯の「角」や「はし」が歪んでいないかといった
最終チェックもします。

「仕上げ」作業を終えたあとは、帯をたたみます。
この「帯をたたむ」ということは
とても簡単な作業のように思えますよね。
しかし、このときにたたみ方がおかしいと
せっかく仕立てた帯にしわができてしまいます。
さらには、帯を結んだときにみえる部分に
折り線がついてしまうこともあるのです。

そのため、帯をまっすぐにして
しわができないように気を配りながら、
ていねいにたたんでいかなくてはなりません。

帯をたたみ終えると、
いよいよ「総仕上げ」になります。

このとき、「押し板」でたたんだ帯をはさみます。
そして「押し板」の上に重石を均等に乗せ、そのまま数時間おきます。



「押し板」で挟み、重石で圧力を加えることで
余分な空気を抜いて、帯に生じた「浮き」をとります。

帯は仕立てると、その作業の過程で余分な空気が入ってしまうため、
布と布との間に「浮き」が生じます。
この「浮き」は「仕上げ」のアイロンがけにより、
ある程度は抑えられますが、完全に抑えることはむずかしいものです。

そのため圧力を加えて「浮き」をとることで、
帯の表面がより平滑になり、張りも生まれてくるのです。
また、「仕上げ」のアイロンではとれなかった
細かいしわもこのときに伸ばすことができます。

「押し板」を使った「総仕上げ」が終われば、
帯の仕立ては終了です。

この「押し板」は通気性のよい薄い木材からできています。
その寸法は長さ1尺4寸9分(56.5cm)、巾1尺2分(38.5cm)。
一方、たたまれた帯の寸法は、
長さ1尺2寸4分(47cm)、巾8寸2分(31cm)になります。
「押し板」は、たたんだ帯をはさむのに丁度よいつくりになっているのです。

「押し板」のつくりは、とてもシンプルなものです。
しかしシンプルな道具は、「押し板」だけではありせん。
帯の仕立てで使う道具すべてに、よけいな装飾はないのです。
目的となる作業、そして使いやすさだけを考えぬいた末に
つくりだされたものばかりです。

この道具の“かたち”は、昔から今日へと
永く変わることなく受け継がれてきています。
そして、“かたち”の変わらない「道具」を使うことによって、
帯のつくり手として忘れてはならない、
大切な“こころ”も受け継がれていく気がするのです。

15回にわたってお届けしてきました「帯仕立ての道具」のお話。
いかがでしたでしょうか?
少しでも興味を持ってお読みいただけていたら幸いです。

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「目打ち」について

「目打ち(めうち)」とは、下の写真のように
先が鋭く尖った細い金属の棒に、木製の柄がついた道具です。



この「目打ち」とかたちのよく似た道具に
「目打ち釘」や「千枚通し」と呼ばれるものがあります。
その長さや太さは違いますが、「目打ち」と同じように
むかしからいろいろな仕事に用いられてきました。

「目打ち釘」はうなぎをさばくときに用いられる道具です。
鋭く尖った先をうなぎの目に打ち込んで、
うなぎを抑える役目があります。

「千枚通し」は製本のときに用いられます。
重なった紙にさして、本を綴じるための穴をあけるために用いられます。
「千枚通し」という呼び名のように、
重なった千枚の紙を通すことができるぐらい先が長いものです。

帯の仕立てに用いる「目打ち」は、
この「千枚通し」という名で呼ばれることもあります。
しかし、実際に帯の仕立てに用いるものは、長さ15cmほどで、
製本のときに用いる「千枚通し」より短いものです。

「目打ち」は、帯の仕立てにおいて
さまざまな作業に用いられています。

帯芯の巾を帯包丁で裁つ作業※1では、
6つ折りにして厚くなった帯芯の角に
「目打ち」の先を刺して印をつけます。

「帯のはしをつくる」※2ときにも「目打ち」を用います。
この作業では、同時に帯の「角」となる部分もつくられます。
そして、このときには「目打ち」の先ではなく、
細い金属の棒状の部分を活用します。

はじめに、帯反のはしの線と1枚目の帯芯のはしを合わせ、
帯反を内側に折って「糊」で仮止めをします。
そのあとに帯反の底辺の出来上がり線と帯芯の底辺を合わせ、
さらに帯反を内側に折ります。
この2つの過程を経て帯の「角」となる部分がつくられます。



しかし、底辺を合わせて折るときに「角」がもたつきやすいため、
きれいに折ることはむずかしくなってしまいます。
そのため、帯芯の底辺のはしの線に「目打ち」を合わせて置き、
「目打ち」の棒に沿わせて帯反を内側に折り込みます。
こうすることで「目打ち」の棒が「角」のもたつきを抑えて、
帯反の底辺をきれいな直線に折ることができるのです。
このとき「目打ち」の棒は、
帯反を帯芯の底辺のはしの線より折り込むことがないように
ストッパーのような役割もします。

また、帯反と帯芯を綴じて表側にひっくり返したあとは、
返された帯のはしや角が中に入り込んでいます。
そのため、「目打ち」の先で中に入り込んだ角を引っ張りだしてから
帯のはしを整えます。
そのときに角が浮いてしまう場合には、
「目打ち」を逆さまに持ち、柄の面の部分で角を叩いて角を落ちつかせます。

また、仕付け糸などを外すときにも「目打ち」は用いられます。
「目打ち」は「目」を「打つ」と書かれるため、痛々しい印象のする名前ですよね。
でも、「目打ち」はほんとうに便利な道具なのです。

※1.1月15日更新のブログ「帯包丁について(その2)」を参照してください。

※2.2月26日更新のブログ「ヤマト糊について」を参照してください。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は4月8日(火)予定です。


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「へら」について

「へら」は、布に「しるし」をつけるための道具として、
古くから裁縫のときに用いられてきました。
この「へら」の先は薄く、尖っています。
「へら」の先を布に押しあてると、布の繊維が圧力でねむるため、
表面に「てかり」が生じます。
この「てかり」が「しるし」になるのです。



しかし、「チャコ」の登場により
「へら」の出番は少なくなっています。
おうちの裁縫道具箱の中で眠ったままになっている「へら」も
多いのではないでしょうか。

昔の「へら」は、象牙からつくられていました。
しかし、現在では、象牙の「へら」は手に入りにくく、
とても高価なものになっています。
そのため、現在販売されているものの多くは、
牛骨からつくられています。

一方、「チャコ」は、みなさんもご存じのとおり、
「チョーク」からできています。
現在では、よく知られている三角形のものだけではなく、
ペンシルタイプのものや、水に溶けるものまでさまざまにあります。
また、その色も赤や青など、それこそ色々あって選ぶことができます。
「チャコ」は「へら」にくらべてその種類や形が豊富ですよね。
これでは、「へら」の登場がますます減ってしまいそうです。

しかし、帯の仕立てにおいては、現在でも「へら」が欠かせません。
帯の仕立ての中でこの「へら」が活躍するのは、
仕立て上がりの帯巾を測り、帯反に線をひくときです。

帯反に線をひく作業の前には、2枚の帯反を合わせて
「しろも」※1で仕付けをしておきます。
仕付けをしたら、帯反を縦にして、仕立て台の上に置きます。
帯反の柄が美しく見えるように配置を考え、
仕立てる帯の巾を1尺差しの鯨尺※2で測っていきます。

鯨尺はねかせず、布に対して垂直に置いて巾を測ります。
帯反の素材によっては、帯巾より2厘から5厘ほど多めに巾を測ります。
そして測った帯巾の「しるし」をつけます。
この「しるし」をつけるときに「へら」を使います。



さらに、最初の「しるし」から3寸ほど上、6寸ほど上の箇所にも
同じように「へら」で「しるし」をつけます。
3箇所の「しるし」を鯨尺でつないだら、線を引きます。
この線を引く作業にも「へら」を使います。

線を引く作業を下から上へと繰り返し、
帯反に長い線を引いていきます。
そののちに、この「へら」でつけた線より5厘下を、
絹糸で本縫いします。
そして、その線に沿って帯反を内側に手折りします。
折り終えたら、折った部分にアイロンをかけ、
しっかりと「折りめ」をつけます。

帯反と帯芯を綴じていく作業では、
この「折りめ」の線と帯芯のはしを合わせて縫います。
「折りめ」が線よりずれていると、
帯芯の巾と合わなくなってしまい、
仕立てあがった帯は歪んだものになってしまいます。

「へら」で引かれた線は、圧力によって「折りくせ」もついています。
そのため、「へら」で引いた線のとおりに折れやすくなり、
ずれることなく、きれいな「折りめ」をつけることができるのです。
「へら」は線をひくと同時に、「折りくせ」をつける役目もしているのです。

「チャコ」では「しるし」をつけることはできますが、
「折りくせ」をつけることはできませんよね。
帯の仕立ておいては、「へら」はなくてはならない大切なものなのです。

「へら」の先を布に押しあて、
適度な力でまっすぐに線を引いていく作業は、
こちらの背筋までもがしゃんとまっすぐになるようで、
とても心地のよいものです。
たとえ「チャコ」のように種類が豊富ではなくても、
「へら」は、「和」や「職人」というものの精神性には
ぴったりとくる道具なのかもしれません。
きっとこの先も仕立ての良い帯をつくるために、
「へら」は、いつまでも眠ることなく活用されていくことでしょう。

※1.3月18日更新のブログ「糸について」を参照してください。

※2.2月5日更新のブログ「鯨尺について」を参照してください。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は4月1日(火)予定です。


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「糸について」

まわりを見渡すと、いろいろな「もの」が「糸」によって
結び合わされていますね。
そしてその「糸」をよくみると、
「糸」の太さや素材にはそれぞれ違いがあることが分かります。

「糸」となる原料には、木綿や絹、麻などが用いられています。
この原料の違いで「糸」の素材感は変わります。
また同じ原料の「糸」でも、糸にする段階や行程が違うと
太さや性質さえも変わってくるのです。
そのため、ひとつひとつの「糸」がもつ性質を考え、
結び合わせる「もの」に適した「糸」を選びだすことが大事です。

帯の仕立てにおいてもそれは同じです。
縫い合わせる布やその作業に合わせた糸を厳選して使っています。



帯の仕立てに「地縫い」と呼ぶ作業があります。
「地縫い」とは、帯反と帯反を合わせて縫うことです。
そしてこの「地縫い」の作業には、手縫い用の「絹糸」を用います。

「絹糸」は、みなさんご存じのとおり、
蚕(カイコ)がつくった繭(マユ)を原料としています。
繭から繰り出された糸は、5本から10本に合わされ、
「生糸(きいと)」と呼ばれるものになります。
「生糸」は「セリシン」という、糊のようなタンパク質に覆われています。
「セリシン」を精錬※して取り除いたものは「練糸(ねりいと)」となります。
お店で販売されている「絹糸」の多くはこの「練糸」です。
そして「地縫い」のときに使う「絹糸」も「練糸」です。

また、糸にかける撚り(より)※の回数やその方法によっても、
糸の太さや強さは変わります。
「地縫い」に用いる「絹糸」を撚る方法は、
「諸撚り(もろより)」というものです。
2本の糸を撚り合わせ、また撚りを戻すという作業をくり返しながら
糸を撚っていくのです。
「諸撚り」がかけられた「絹糸」は丈夫で、強いものになります。
また滑りもよいため、帯反を縫う「糸」には最適なものです。

また、この「地縫い」をする前には、
あらかじめ「しろも」と呼ばれる木綿糸で、帯反と帯反を仮止めしておきます。
この「木綿糸」は「綿花」の種子からとれる繊維を原料としています。
「しろも」とは、なんだか可愛らしい呼び名ですが、
「白い木綿糸」の略語なのです。
この「しろも」は撚りの甘い、太めの木綿糸で、
「仕付け」のための糸として用いられています。
「仕付け」とは「本縫い」の前に、布を押さえ止めることです。
あらかじめ「仕付け」をすることにより
「地縫い」のときに布がよれることなく、きれいに縫うことができます。

この「仕付け」に用いる「しろも」は
滑りにくい性質をもっています。
そのため、布をきちんと押さえることができるので
「仕付け」用の糸にはぴったりなのです。

また、帯反と帯芯を綴じるときには「シャッペスパン」という糸を用います。
「シャッペスパン」とは、特殊な方法でつくられたポリエステルの「糸」のことです。
細くて、丈夫で縮むことがなく、適度な伸びがある「シャッペスパン」は
絹や木綿にも馴染みがよいので、帯反と帯芯を綴じるときには最適な糸です。

しかし、祖母が帯の仕立てをしていた50年から60年前には
帯反と帯芯の綴じには、「そだい糸」いう絹糸が用いられていました。
この「そだい糸」とは、蚕が吐き出す糸を精錬せずに
そのまま何本かにまとめたものだったようです。
この「そだい糸」はとても丈夫な「糸」でした。
また、丈夫でありながらも
帯が仕立てあがったときに糸の「あたり」がつくことのない、
細いものだったようです。

しかし、その当時でさえも特殊なものだった「そだい糸」は、
だんだん手に入らなくなっていったようです。
そして30年ほど前には、ついにこの「そだい糸」を
使うことができなくなってしまいました。
現在では、もうその名前さえもめったに聞くことはないでしょう。

そのため、母はその代わりとなる「糸」を、
探しださなくてはなりませんでした。
そして選びだした「糸」が、現在用いている「シャッペスパン」なのです。
「そだい糸」のように細くて丈夫な「シャッペスパン」は、
素材こそ違いますが、「そだい糸」の代わりとしての役割を充分に果たしています。

「もの」と「もの」とを結び合わせる糸。
しかし「糸」はその「もの」によって選ばれてこそ、
「結び合わす」という機能を最大限に発揮できるのです。

※精錬 …… 「セリシン」を石鹸や炭酸ナトリウムの薄い溶液で煮て取り除くこと。

※撚り …… 「糸」をねじり合わせること。


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次回の更新は3月25日(火)予定です。


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