花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「唐草文様」について-その2-

2010-08-31 | 文様について

presented by hanamura


もう夏も終わり、
明日から9月ですね。
本来ならば、秋の気配が徐々に深まっていく時季ですが、
今年は残暑が厳しく、まるで季節が夏のまま止まっているようです。
それでも気持ちはすでに秋や冬に向かっている
おしゃれに敏感な方々も多いのではないでしょうか。

花邑では、明日9月1日から「更紗の帯展」を開催します。
秋冬の装いを彩る素敵な更紗の帯を多く揃えて、
皆さまのご来店をお待ちしております。

今回は、前回に引き続き、
その「更紗の帯展」にちなんで、
更紗布に多く用いられている
「唐草文様」についてお話しします。

紀元前3000年前の古代エジプトで誕生し、
古代オリエントを経て
古代ギリシャに伝えられた唐草文様は、
パルメット唐草文様となり、
紀元前300年前ごろにインドへと伝えられました。

しかしインドでは、
すでに西洋の唐草文様とは異なる唐草文様が誕生していて、
装飾の意匠に用いられていました。

インドで生まれた唐草文様も、
実は「蓮」をモチーフに意匠化したものです。
驚くことに、遠く古代エジプトで生まれ、
唐草文様のもとになったものと
同じモチーフなのです。

同じ蓮の花が唐草文様になったことが
偶然なのかということは不明で、
いまだもって謎ではあるのですが、
自然のなかで暮らしていた人々にとっては、
水上に華やかな花を咲かせる蓮は、
古代エジプトでも、インドでも
水と大地と生命、太陽、再生と創造を司り
聖なる花として扱われていたほど、
神々しさを連想させる特別な花であったためかもしれませんね。



しかし、同じ蓮のモチーフでも、
エジプトの唐草文様は横から眺めた蓮の花、
インドの唐草文様は真上から眺めた円形状の蓮の花を意匠化していて、
その印象はだいぶ異なります。

円形状の蓮唐草文様は、
インドでつくられた仏教美術の
いたるところに刻まれています。

インドではやがて、
西洋からもたらされた唐草文様も
柱の意匠などに用いられるようにはなりますが、
多くは円形状の蓮唐草文様が用いられました。

一方、中央アジアでは
ロータス唐草文様がインドとは別のルートを通して伝えられます。
中央アジアに伝わったロータス唐草文様は、
はじめこそ神聖な意匠として扱われることはなく、
多くは流麗な曲線を持つ美しい文様として
装飾品の意匠に用いられましたが、
やがて仏教美術に少しずつ取り入れられ、
ここでも宗教的な色合いが強い文様になりました。

そして、さらに唐草文様は、
1 世紀には東方の中国にももたらされました。

次回は、その中国、そして中国から日本へと伝えられた
唐草文様のお話しです。

※写真の名古屋帯は「更紗の帯展」にてご紹介する和更紗です。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は9月7日(火)予定です。


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「唐草文様」について-その1-

2010-08-24 | 文様について

presented by hanamura


8月も半ばを過ぎ、
夏着物をお召しになれる季節も
もうあと少しとなってしまいましたね。

夏着物は着用できる時期が短かいので、
もともと、袷と比べて着る機会が少ないのですが、
今年は猛暑ということもあり、
袖を通せなかったという方もいらっしゃるでしょう。

まもなく、単衣の季節になりますが、
早く涼しくなってくれることを
祈るばかりですね。

暑い中、気の早い話しですが、
今年の冬はラニーニャ現象により、
寒さがたいへん厳しくなるようです。
猛暑の夏とはちがい、
重ね着が基本の和の装いにとっては
むしろ望むところかもしれませんね。

とくに、ほっこりとあたたかな紬のお着物は
寒さの厳しい冬には
とても重宝します。
そろそろ単衣や紬、またそれにあわせる帯も
あわせてお探しになられる頃合でしょう。

さて花邑銀座店では、9月1日から20日まで、
「更紗の帯展」を開催いたします。

今年の秋冬に着る小紋や紬、ウールなどのお着物を
引き立てる素敵な更紗の帯を数多く揃えて、
みなさまのご来店を心よりお待ちしております。

今日は、その「更紗の帯展」にちなんで、
更紗の文様の中で、
最も多く用いられている
「唐草文様」についてお話ししましょう。



唐草文様は、絡み合った蔓が曲線状に、
連続的にあらわされた文様です。

お着物を知らない方でも、
ドロボーさんが背負っていた
緑色の風呂敷の文様や、
獅子舞が被っている風呂敷の文様といえば、
すぐに思い浮かべることができるでしょう。

唐草文様は、
そうした風呂敷などの日常品から、
着物や帯、陶器などの意匠に古くから用いられ、
最も親しまれてきた伝統文様のひとつです。

そして、日本同様に、
世界各地でも古くから用いられている文様なのです。

唐草文様のはじまりは、
紀元前3000年前の古代エジプトだったようです。
古代エジプトでは、
壁画の装飾などに「ロータス」とよばれる睡蓮の文様を
連続的にあらわしました。

古代エジプトでは、
このロータス文様が復活や再生を意味し、
聖なる花として装飾品には欠かせないモチーフでした。

やがてロータス文様は、
西アジアで誕生した
古代オリエントにもたらされます。

古代オリエントでは、
「パルメット」とよばれるナツメヤシの文様を
つないだ文様が考案されました。

パルメット文様は繁栄や発展を表し、
このパルメットを繋いで
木のかたちにしたものは「生命の木」とされ、
神聖化されました。

さらに古代ギリシャにおいて
ロータス文様とパルメット文様とが
融合したパルメット唐草文様が考案されます。

このパルメット唐草文様は、
曲線状に蔓が意匠化されて
繋がれたもので、
現在の唐草文様とほぼ同様のものです。

古代ギリシアで考案されたパルメット唐草文様は
やがて、アレクサンダー大王の東征により、
ペルシャへともたらされ、
紀元前300年前ごろにインドへと伝えられました。

次回は、インドから中国、そして日本に伝えられた唐草文様のお話です。

※写真の名古屋帯は「更紗の帯展」にてご紹介する和更紗です。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は8月31日(火)予定です。


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「団扇文様」について

2010-08-17 | 文様について

presented by hanamura


お盆を過ぎて、
日も段々と短くなってきました。
それでもここ数日は、
各地で真夏に戻ったような暑い日が続いていますね。
セミもまだまだ夏真っ盛りとばかりに
元気な鳴き声で大合唱をしています。

この時期、各地で行われる
お祭りや花火大会には
団扇や扇子といった夏の小道具たちが必需品ですね。
とくに団扇は盆踊りのときに
用いることもあり、
まだまだ大活躍しそうです。

手で扇(あお)いで風を起こす団扇は、
以前、このブログでお話しした扇子とその機能は同じです。
しかし、扇子は折りたため、団扇は折りたためません。
扇に柄をつけただけのとてもシンプルなつくりです。

そのシンプルなつくりのためか、
団扇は古代の中国やエジプトでも
すでに用いられていたようで、
当時の壁画には、
団扇と思われる器物が描かれているようです。

日本でも古墳時代にはすでに
用いられていました。
そして、その用途は自分で扇いで、
風を起こすためだけではなく、
神事の際に禍(わざわい)や汚れをはらうための
道具として用いられていました。

平安時代には、
扇の部分を鳥の羽や絹で作成した
さまざまな団扇が作られ、
貴族達の間で用いられていました。

戦国時代には、
合戦の際に指揮者が手に持って戦を采配する
軍配団扇が作られました。
この軍配団扇は、
現代でもお相撲のときに行司が手に持っているものです。
下の写真は、その軍配団扇を文様化したものです。



やがて、この団扇は着物などの文様として
描かれるようになりました。
もちろん、一般的な団扇文様のほか
軍配団扇をモチーフにしたものも
多くつくられています。

団扇の文様では、
団扇の扇部分のみを意匠化して、
扇の中には描かれた絵をあらわすという
文様の中に文様という
2重構造になったものが多いのです。

下の写真は、大正から昭和初期頃に作られた布です。
団扇文様の中には果物が描かれています。
柄のない団扇の文様は、
一見すると、とても抽象的です。



長く貴族や武士などの支配階級の間で用いられていた団扇は、
江戸時代になると庶民にも広まり、
火を起こしたり
虫を払ったりするための道具としても
日常的に用いられました。

それにともない、
扇の文様も数多く描かれるようになり、
扇の中に描かれる絵のバリエーションも増えていき、
俳句や浮世絵などが描かれるようにもなりました。
やはり、当時つくられていた豪華な能装束にも
団扇の文様があらわされていて、
さまざまな人たちの間で
団扇が用いられていたことがうかがえます。

趣のある絵や
格調高い文様が描かれていた
昔の団扇とは異なり、
現代ではさまざまな広告などが
デザインされていることも多く、
それはそれで、こういう時代なので
しょうがない気もするのですが、
盆踊りやお祭りなどで、
きれいな意匠の団扇をもっている女性を見かけたりすると
「粋な方だなぁ」と思ったりもします。

※写真の名古屋帯は花邑銀座店にて取り扱っています。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は8月24日(火)予定です。


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「墨絵」について

2010-08-10 | 文様について

presented by hanamura


暑い日が続いていますね。
それでも、立秋を迎えて、
ほんの少しですが、
風が涼しくなってきているように感じられます。
秋の涼しい風が待ち遠しいですね。

まだまだ暑さが残るこの季節の着物や帯の意匠には、
秋の涼風を感じられるものが多くあります。
モチーフだけではなく、
色合いや意匠もすっきりと
シンプルなものが多いようです。

しかしながら、シンプルなものほど、
作り手の技術力が顕著にあらわれてしまいます。

今日、お話しする墨絵も
熟練した技術力が必要な染めの技法のひとつです。 

墨絵は水墨画と同じもので、
墨一色で濃淡をつけ、
奥行きや陰影をあらわす絵画の技法です。

墨絵は、墨一色でありながらも
墨の濃淡により生じる陰影や
筆の線に強弱をつけることで
奥行きが表現されます。

多くの墨絵は、下絵なしで直接描かれるため、
その絵には画家の技術力だけではなく、
研ぎ澄まされた精神力などが凝縮されているのです。



墨絵は古来の中国で
山水画を描くための技法として考案されました。
日本には鎌倉時代に禅の思想とともに伝えられ、
武家社会の中で広がっていきました。

和歌山県にある熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ)の御神服には、
墨絵で海辺の風景があらわされた袴が保管されています。
この袴は「海賦裳(かいぶも)」とよばれ、
南北朝時代に足利将軍が調達したもののようで、
当時から墨絵が着物に描かれていたことが窺えます。

江戸時代中期には、
当時活躍した絵師の尾形光琳が
墨絵で小袖に秋草文様を描いていました。

この江戸時代中期という時代は、
実は友禅染めが考案された時期でもあります。
友禅染めは、文様の縁を糊で隈取って染める染色方法で、
色彩豊かな文様をあらわすことができます。

一方、着物や帯の意匠に描かれる墨絵は、
無線友禅ともいわれています。

無線友禅とは、糊で糸目を引く友禅染めに対して、
糸目がない友禅染めのことを指します。
無線友禅は糊を使わずに、生地に直接文様を描いて、
染め上げるのです。

墨絵の場合は、染料の墨にミョウバンなどの定着剤を混ぜ、
下絵を描かずに直接生地に描きあげます。
失敗してしまうと生地が無駄になってしまうので、
一気に描き上げる熟練した技術力が必要なのです。

※写真の名古屋帯は花邑銀座店にて取り扱っています。

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次回の更新は8月17日(火)予定です。


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「渦巻き文様」について

2010-08-03 | 文様について

presented by hanamura


8月を過ぎて、いよいよ夏も真っ盛りです。
暑い日が続いているためか、
「暑いですね」というフレーズが
あいさつ変わりになってしまっているようです。

昨今は、ビアガーデンが流行しているようですが、
この暑さも流行に一役買っているのでしょう。
外でのお食事は、この季節ならではの楽しみでもあります。

しかし、夏は蚊も多いため、
外にいるといつの間にか蚊に刺されていることがよくあります。

蚊に刺されないようにするために
現在ではさまざまなものが販売されていますが、
やはり、「蚊取り」とくれば「線香」、
「蚊取り線香」です。

夏の夕暮れにどこかからか漂う蚊取り線香のにおいは、
どこか懐かしく、この季節ならではの風情を感じさせます。

この蚊取り線香の形状は、
ご存知のとおり「渦巻き」ですね。
今回は、この渦巻きの文様についてお話しましょう。

蚊取り線香は、ぐるぐると渦を巻いたその形が海外ではめずらしく、
外国の方のおみやげにも喜ばれるようです。
それは、渦巻きの文様が
世界各地で用いられている普遍的な文様であることとも
関係しているのでしょう。



渦巻き文様の歴史はたいへん古く、
人類最古の文様ともされています。
世界各国の紀元前3,000年の地層からは、
渦巻き文様を記した器などが多く
発掘されています。

日本でも、縄文時代につくられた
「縄文土器」に刻まれた渦巻き文様は、
有名ですね。

一方、遠く離れた西洋のアイルランドでは、
ケルト人がこの渦巻き文様を
日常の工芸品や十字架などに
刻んでいました。

古代の人々にとって、
渦巻きの文様は呪術的で神秘的な意味合いをもつ
文様だったようです。
そのため、シンプルな形状に反して
古くから多くの学者に研究されている、
奥深い文様なのです。

ところが、日本において渦巻き文様は、
弥生時代以降になると、
影をひそめていきます。

着物や帯の意匠にも
雲文様や水文様、唐草文様などの
文様にともなわれながらも、
単一であらわされることは少なくなりました。

その渦巻き文様が再び脚光を浴びるのは、
明治時代後期の頃です。
当時流行したアールヌーボーの文様とともに、
斬新な文様として着物や帯などの意匠にも
多く用いられるようになりました。



上の写真の渦巻き文様の名古屋帯は2つとも、
大正~昭和初期頃につくられた古布からお仕立て替えしたものです。
2つともシンプルな意匠でありながら、存在感があります。

影をひそめていた渦巻きが、
時代の変革期に再びあらわれるとは、
とても象徴的ですね。
ファッションやデザインというものは、
その時代の空気を反映する鏡でもあります。
もしかしたら、時代の大きな「渦」が
まさにそのとき生まれたことが
大きな要因なのかもしれませんね。

※写真の名古屋帯は花邑銀座店にて取り扱っています。

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