花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

黄八丈について-その2-

2010-01-26 | 黄八丈について

presented by hanamura


暖かくなったり、寒くなったりと
寒暖の差が大きいこのごろですね。
それでも季節は少しずつ春へと向かっています。
ここ東京では、梅の花が早くもつぼみを広げています。
暖かくなることは嬉しいのですが、
もう少しで冬も終わりかと思うと、
少し寂しい気もします。

さて、今回の花邑の帯あそびは
前回に引き続き、黄八丈についてのお話です。

黄八丈の特徴である
暖かな中にも渋みがある色合いは、
八丈島に自生する天然の草花を染料とすることで
あらわされます。

樺色や、黒色、鳶色を基調とした黄八丈も良いのですが、
やはり黄八丈といえば、渋い刈安色ですね。
この刈安色の染料は「小鮒草(コブナグサ)」という
イネ科の草を用います。
八丈島のほかにも、日本各地に自生している草なので、
見たことがあるという方も多いでしょう。

ちなみに八丈島では、
刈安色の染料が採れるので
「コブナグサ」のことを「カリヤス」と
よんでいるそうです。

この「カリヤス」は、
秋になると稲のような形の穂先が出てきます。
染料には、その穂先が出はじめたころの「カリヤス」を用います。

刈り取った「カリヤス」を乾燥させ、
煎じて煮詰めると染料になります。
この染料の中に織糸を漬け込み、
取り出しては乾燥させるという作業を20回ほど繰り返します。
最後に木の灰の灰汁を糸に染み込ませます。
こうした作業行程を経て、
黄八丈特有の渋い刈安色は
出てくるのです。

膨大な手間をかけて染められた糸は、
「高機」という織機にかけられ、
昔から変わらない手作業により織り上げられます。

黄八丈が織られている八丈島は、
平安時代のころより上質な絹織物の産地として有名でした。
以前は、その原料となる蚕を育てる養蚕も
盛んに行われていたようです。
残念ながら、養蚕は現在行われていないようですが、
その高い織りの技術だけは昔と変わらずに行われています。

その黄八丈の織り方ですが、
実は、2通りあります。
「平織り」と「綾織り」です。

平織りとは、ほかの絹織物でもよく見られる織り方で、
経糸(たていと)と緯糸(よこいと)とが
一本おきに交互になるよう交差させながら織ったものです。

一方、綾織りでは、
緯糸の上に2本の経糸を交差させ、
糸の交わる点が斜めになるように織ります。
綾織りは、たいへん高度な技術が必要とされ織り方なのです。

つまり、平織りより綾織りのほうが余分に手間がかかるため、
お値段も高価になります。
しかしそのぶん、綾織りの黄八丈はしなやかで、
着用した際にしわになりにくいという
特長もあるのです。



上の写真は、綾織りのうちのひとつ、
「まるまなこ」とよばれる織り方で
織り上げられた黄八丈です。

光の加減で文様が浮き沈みするさまがきれいです。
黄八丈というと、「黄色」=派手というイメージを
持たれる方もいらっしゃるのですが、
実際に合わせてみると、日本人の肌の色によく合う色なのでしょう、
どなたにもしっとりと馴染むようです。

まさに、前回のお話のなかでご紹介した
浄瑠璃の「恋娘昔八丈」のヒロインのように
凛とした艶が出てくるようにも感じられます。
ぜひ一度、お試しください。

※写真の黄八丈綾織りまるまなこは花邑銀座店にて取り扱っています。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は2月2日(火)予定です。


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「黄八丈」について

2010-01-19 | 黄八丈について

presented by hanamura


ここ東京では今日、桜が咲くような暖かさになりました。
しかしこの暖かさも長くは続かないようで、
また寒い風の吹く身も凍るような日が
再びやってくるようです。

暦の上でもまもなく、大寒を迎え、
1年の中でもっとも寒い季節になります。
寒い北風が吹く中、外を歩いていると、
自然に足は日の当たる日なたのほうに
向かってしまいます。

いまは、お日さまの光を
いちばんありがたく感じる季節ですね。

今回は、そのお日さまの光を思わせるような
暖かな色合いの紬、
「黄八丈」についてお話ししましょう。

暖かでありながら、
渋みもある草木染めの色合い、
格子や縞の柄行き、
光沢のある風合いを特徴とする黄八丈は、
着物をお召しになる方はもちろん、
お召しにならない方も、
時代劇などで一度は目にされたことが
あるのではないでしょうか。



「黄八丈」は、
東京都の伊豆諸島のひとつ、
八丈島でつくられている絹織物で、
1977年には国の伝統工芸品に指定されています。

八丈島では古くから絹織物が盛んに行われていました。
その上質な絹は評判をよび、
室町時代には将軍への貢納品にもなっています。

いわゆる黄八丈は、
江戸時代初期に考案されました。
幕府への年貢としても納められたため、
盛んに織られました。

ちなみに、黄八丈の特徴である縞や格子柄は、
当時の流行の柄行きだったのです。

その黄八丈は江戸時代後期になると、
浄瑠璃の「恋娘昔八丈」の主人公が着用したことで一躍有名になり、
江戸庶民たちにとって憧れの紬となりました。

悲恋を題材としたこの物語で
主人公が着た黄八丈は、
女性の情念を引き立たせる着物として
艶っぽく映ったのでしょう。

写真の黄八丈はまさにその当時に近い、
明治時代につくられたものです。
燻した金を思わせる渋い刈安色の糸で、
細かく綾織りされています。

次回の「花邑の帯あそび」は、
その技法についてお話ししましょう。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は1月26日(火)予定です。


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「寅」=「虎」について

2010-01-12 | 文様について

presented by hanamura


新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

花邑 銀座店では、
棚に飾った干支人形を「牛」から「虎」にバトンタッチして、
新年のお客さまをお迎えしています。

このお人形は、昨年にひき続き、
帯の仕立て職人だった、
祖母の杉江いつえがつくったものです。

材料には、着物の素材としてもなじみ深い
絹の縮緬(ちりめん)が用いられています。

そのお尻にはしましまの尻尾、
お顔にはひげも付けられていて、
凝ったつくりになっています。
本来は凶暴な虎ですが、
愛嬌があってとても可愛らしいです。



「虎」は着物や帯の文様として用いられることも多いですね。
新年はじめての「花邑の帯あそび」では、
その「寅」=「虎」のお話しをしましょう。

虎は、着物や帯をはじめとして、
調度品やプロ野球のチームキャラクターなど
古来からさまざまなもののモチーフになり、
親しみ深く、とても人気のある動物ですが、
ご承知の通り、日本列島には生息していません。
遠い昔に、装飾品や仏教とともに
古代の中国からもたらされた動物なのです。

古代の中国では、
虎は「野獣の王」とされ、
悪霊を追い払う聖獣として、
崇拝されていました。

その中でも色の白い虎は、
遺伝子の特別変異で生まれるため、
生息数が少なく、白虎(びゃっこ)と呼ばれ
たいへん珍重されました。
そのためか、空想上の聖獣である龍や鳳凰と並んで
「四神図」にも登場します。

「四神図」とは、古代中国において東西南北を司る
神様を表した図です。
中国では東西南北それぞれの方角には
神様がいると考えられていたのです。
その四方向の神様を「四神」とよびます。

東を守るのは龍を表した青龍(せいりゅう)、
南を守るのは鳳凰を表した朱雀(すざく)、
北を守るのは亀に蛇が巻き付いた玄武(げんむ)、
そして西を守る聖獣が白虎なのです。

この四神図は、日本でも描かれてきました。
現在、東京都港区にある「虎ノ門」は、
江戸時代に、白虎が描かれていた場所だったので、
そう名づけられたようです。
当時その場所は江戸城からみて西に位置していたのです。

また、奈良で発掘された「亀虎(キトラ)古墳」には、
石棺内部の東西南北の壁に
この四神の図がそれぞれ描かれています。

その奈良は、今年で平城京遷都1,300年を迎えるので、
これから奈良に行かれる方も多いでしょう。
なかには「亀虎(キトラ)古墳」の白い虎を見に行かれる方も
いらっしゃるかもしれませんね。

亀虎古墳の虎はさぞかし立派と思われますが、
花邑銀座店にいる虎もかわいさでは負けません。
ぜひ会いにいらしてくださいね。


花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は1月19日(火)予定です。


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