presented by hanamura ginza
まもなく 8 月ですね。
暦の上では大暑を迎え、1 年でもっとも暑さが厳しい時季となります。
今年の 7 月は例年に比べると、
涼しい日が多かったのですが、
ここ数日間は真夏日となる日が多く、
道を歩いていると、どこからともなく蝉の声が聞こえてきます。
蝉を筆頭にさまざまな生物が謳歌するこの時季は、
多くの植物も花を咲かせます。
この季節に咲く花といえば、ヒマワリやアサガオ、ハイビスカス、ユリ、
ナデシコなどの華やかな花を思い浮かべますが、
木陰でひっそりと咲く花も多いですね。
今日お話しする木賊も、
この時季になると一見すると咲いているのかも分からない、
小さな土筆のようなかわいい花を咲かせます。
木賊は、シダ植物の一種で、
その特徴といえば、地面から直立してすっと生えた細長い茎です。
茎にはくっきりとした節があり、
その姿は竹をとても細く、小さくしたように見えます。
生息地はおもに山間などの湿地帯ですが、
丈夫で長持ちするので、
人家の庭先などでも見ることができ、
なじみ深い植物といえるでしょう。
細長い木賊の茎には、微細な突起があり、
その突起がヤスリのような役目を果たすようで、
細工物を作る職人たちに重宝され、
細工物を磨く際に用いられることもあります。
また、以前は木賊で歯を磨くこともあったようです。
木賊の名前そのものも、
もともと「研ぐ草」とよばれたことに由来しています。
また、乾燥させた木賊は、
生薬として腸出血などを抑える薬にもなります。
このように、昔は木賊が生活の中で
さまざまに利用されていたようで、
この木賊を刈ることで生計をたてていた人もいました。
能謡では、室町時代に世阿弥が書いたとされる
「木賊」という名前の演目がありますが、
その物語の中には、我が子をさらわれた木賊刈りの老翁が
信濃の里でひとり木賊を刈っている場面が登場します。
まもなく終了する京の祇園祭では、
お囃子を奏でつつ市内を練り歩く
多様な山鉾の巡行が有名ですが、
その山鉾のひとつに、
その能謡の「木賊」を題材にしたものがあります。
山鉾の上に乗せられた御神体人形は右手に鎌を持ち、
左手に木賊を持った老翁の姿をあらわしたもので、
寂しげな表情が印象的な木彫りの老翁は、
桃山時代に仏師の手によりつくられたとされています。
昔は、木賊狩りが秋に行われていたようで、
木賊刈りといえば、秋をあらわすものとして、
俳句の季語にもなっています。
文様においても、同じく秋の風物詩をあらわす月に兎とともに、
この木賊をあらわしたものが多く見受けられます。
上の写真は、昭和初期頃につくられた藍染めの木綿地からお仕立て替えした名古屋帯です。
たて縞に草の文様が型染めであらわされています。
シンプルながら和の風情が漂う意匠ですが、
草の文様をよく眺めると、節のようなものが見受けられます。
おそらくこの草文様は、木賊をあらわしたものかと思われます。
すっと伸びた佇まいからは、
華やかな花にはない詫び錆びが感じられますね。
眩しい夏の光を避けて木陰にいくと、
背筋をのばしてひっそりと花を咲かせた木賊の姿を
みかけることができるかもしれません。
上の写真の「縦縞に草文 型染め 名古屋帯」は、花邑銀座店でご紹介している商品です。
花邑 銀座店のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は 8 月 8 日(木)予定です。
帯のアトリエ 花邑-hanamura- 銀座店ホームページへ
↓