presented by hanamura
立冬を迎えて、日が暮れるのが早くなりましたね。
最近ではふと気がつくと、
外がすっかり暗くなっていることも多くなりました。
日が暮れた街には、早くもクリスマスのイルミネーションが
きらきらと輝いて、本格的な冬の到来を告げています。
そこで、今回は寒い冬の季節に
ほっと気持ちがあたたかくなるような
「絵更紗」という味わい深い更紗についてお話します。
絵更紗とは、大正時代のはじめに
元井三門里(もといみどり)氏により
京都で考案された染色方法のひとつです。
絵更紗は「更紗」という
名前がつくことからも分かるように
木綿地に染められた染織品です。
以前にこのブログでお話したように(※1)「更紗」の定義は広く、
とくに定まったものはありません。
しかし、一般的には「木綿に染められた布」を指して「更紗」とよびます。
更紗に特定の技法はありません。
世界各地でつくられる更紗の染色に用いられる技法は
ロウケツ染めや木版染めなど、多様です。
そのため、つくられる地域の文化や特性によって
趣向の異なった更紗がさまざまにつくられているのです。
いわゆる和更紗、つまり日本でつくられる更紗の多くは、
伊勢の型紙を用いて文様の型が染められます。
もちろん、日本でも古くは鍋島更紗とよばれる
木版染めの更紗もありました。
さて、今回お話する「絵更紗」の文様は、
着物の染色において代表的な友禅染めのように
防染(※2)に糊や蝋を用いて染められることもありますが、
基本的には芋版、もしくは手描きによって表されます。
芋版というと、たいへん懐かしい感じがしますね。
小学校の時に図工の時間で習ったり、
年賀状を書くときにつくった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
芋版は、お芋を切った断面に絵柄を彫ります。
そして、彫った断面に染料をつけて紙や布に押し当て
絵柄をうつしていきます。
一見稚拙な作業ですが、
実際にやってみるときれいにうつすのはなかなかむずかしいものです。
絵更紗もまったく同じようにして文様を染め付けていきます。
さらに中心となる文様は手描きで表現したりもします。
絵更紗に用いられる色は、原則的に赤、青、黄色の
三原色からつくりだします。
その限られた色からできる色の広がりを楽しむようです。
伊勢の型紙や木版よりも、
身近にある芋を用いて文様が表されることに、
絵更紗の魅力はあります。
上の写真は、手描きされた花を蝋で防染して、
地紋となる幾何学文様を芋版で連続的に染め付けたものです。
すこしずれた芋版の継ぎ目には、なんともいえない味わいがあります。
手描きされた花は、野に咲く花でしょうか。
上の写真のように、絵更紗では多くの場合、
身近な花や人形、鳥など、生活に根ざしたものが
文様のモチーフとなります。
絵更紗の創案者である元井氏は、
作品をつくる上で「手仕事」の味わいが
最大限に生かされることを大切にしていたようです。
もともと元井氏は、画家を志していました。
しかし、たまたま目にした更紗に魅了され、
画家から一転して染色家となり、
更紗に絵画的な作品要素を加えた絵更紗を生み出したのです。
絵更紗が創案された当時の日本は、
新しい文化や技術が海外から大量に輸入されていました。
それにともない、いわゆる工業化が進み、
それまで手作業で行われていたものが
すこしずつ機械による大量生産に変わっていきました。
そのため、時間をかけて丹念につくるということも
少なくなっていきました。
染織品もその例外ではありません。
日本全体が近代化によって様変わりしていくなかで、
素朴で原始的ながら不思議な魅力のある
いにしえの更紗に少しでも近づこうと、
元井氏が試行錯誤を繰り返しながら、
つくりあげたものが絵更紗なのです。
※写真の絵更紗の名古屋帯は花邑銀座店にて取り扱っています。
(※1)2008年3月更新の
「和更紗について」をご覧ください。
(※2)布の一部に糊(のり)などを付着させて染液がしみこむのを防ぎ、他の部分を染色して模様をあらわす方法。
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次回の更新は11月17日(火)予定です。
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