花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「水車文様」について

2013-05-22 | 文様について

presented by hanamura ginza


5 月も半ばを過ぎ、
初夏めいた陽射しになってきています。

沖縄では、梅雨入り宣言がだされたようですが、
東京でも爽やかな風に、少しずつ湿気が混じるようになってきました。
白い蕾をつけた紫陽花が、いちはやく梅雨の訪れを知らせています。

さて、初夏の風物といえば、
紫陽花や初鰹、藤の花などが思い浮かびますが、
田植えを終えたばかりの田んぼもまた、初夏の風物のひとつといえますね。

陽射しに照らされてきらきらと輝く水面や、
風に揺れる小さな苗、
田んぼに響く蛙の合唱といった田園の風景を思いおこすだけでも、
郷愁が誘われますね。

里山の田んぼには、水車が設置されているところもあるようで、
ゆっくりと回る水車の光景は、
眺めているだけでも涼しげです。

現代では水車を見ることは少なくなってきましたが、
水車を使用している田園では、
水車が回りはじめると夏の訪れを感じるようです。

水車は、世界各地で古くから使用されてきた原動機のひとつです。
ヨーロッパでは、電動機が発明されるまで、
脱穀や製粉などに用いる大切な動力となっていました。
また、日本でもすでに平安時代のころより
田んぼに水を張るための灌漑用水車が用いられ、
鎌倉時代になると農業に欠かせないものとして、
広く普及していきました。

江戸時代中期には、農業でけではなく、
精米用や製粉、酒造り、菜種の油しぼりの動力源としても
水車が用いられるようになり、
各地で水車が回る光景がみられるようになりました。

大切な動力として、1 年中休むことなく回りつづけていた水車には、
「精出せば凍る間もなし水車」
という句も残されています。

当時、浮世絵師の葛飾北斎があらわした「富嶽三十六景」の中には、
こうした水車と富士を組み合わせた絵が残されています。
「穏田(おんでん)の水車」とよばれる作品で、
現在の東京都渋谷区の神宮前周辺にあった
穏田(おんでん)川にかかる水車の情景が描かれています。
その絵の中では、回り続ける水車に、
どっしりと佇む富士を組み合わせることで、
動と静のコントラストが
叙情豊かに表現されています。

着物の意匠では、水辺をあらわし、涼を誘うものとして、
水車の文様が多く用いられています。



上の写真は、
昭和初期につくられた絹縮みの意匠です。
船や貝などの水辺をあらわす文様とともに、
水車の文様があらわされています。
カラフルに染められた水車の意匠がかわいらしいですね。

このように、季節のモチーフがあらわされる着物もまた、
これからの季節を彩る大切な要素のひとつですね。

※上の写真の上の写真の「波文に水車と船文様 型染め 絹縮み 名古屋帯 」は花邑銀座店でご紹介している商品です。


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「ペイズリー文様」について

2013-05-08 | 文様について

presented by hanamura ginza


さわやかで過ごしやすい日が続いていますが、
立夏を迎え、陽射しがだいぶ夏めいてきました。
風に揺れた木々の若葉が、
陽光に照らされて、
きらきらと輝いています。

すくすくと葉を広げる「目にまぶしい」若葉をみると、
木々のもつ生命力があらためて感じられます。

樹木は古来より世界各地で生命を象徴するものとされてきましたが、
信仰の対象になってきたのもうなずける光景です。

古代のエジプトの神話やインドの聖典、聖書には
生命の樹とよばれる樹が登場し、
仏教における宇宙樹、イスラム教における天上の樹など、
樹木はその姿を少しずつ変えながらも、
広い地域の異なる文化で同様に信仰されてきました。

今日お話しするペイズリー文様は、
その生命の樹が由来となってつくられた文様だといわれています。

ペイズリー文様は、
サーサーン朝ペルシャ ( 224 年~651 年) で考案された文様が
もとになっているとされています。

ペルシャのルネサンス期ともよばれるこの時代、
ペルシャでは芸術に対する意識が高まり、
さまざまな芸術品や工芸品が生み出され、
宮殿のデザインも凝ったものになっていきました。

そのなかで、ペイズリー文様は草花文様や幾何学文様とともに
宮殿の壁画などの装飾に用いられるようになりました。

このペイズリー文様は、
ペルシャと交流が盛んだったインドにも伝えられ、
カシミール地方で織られていたショールや、
更紗の意匠に取り入れられ、シルクロードを渡って世界中に広められました。

そして、抽象的なかたちから、
勾玉や、仏陀の足跡、マンゴー、水滴や炎、糸杉など、
その国々により、さまざまな解釈がなされてきました。
いずれにしても、生命の力をあらわした文様だと考えられていることから、
「生命の樹」とよばれることもあります。



上の写真は、
印度でつくられた更紗布からお仕立て替えした半巾帯です。
唐花と組み合わされたペイズリー文様が全体に散らされた、
素朴でかわいらしい雰囲気の更紗です。

19世紀にインドがイギリスの植民地とされると、
インドのショールを模倣したショールが
スコットランドのペイズリー市でつくられるようになりました。
東洋趣味の流行も伴って、ペイズリー文様のショールはたいへんな
人気となったようです。

「ペイズリー」という名前も、このペイズリー市からつけられた名前のようで、
その時代にペイズリー文様がいかに多くつくられ、広められたのかを
この名前からうかがい知ることができます。






上の写真は、
昭和初期ごろにつくられた和更紗からお仕立て替えした名古屋帯です。
ペイズリー文様で、日本の伝統文様である七宝をあらわしています。
和洋折衷な意匠が面白く、洒落た雰囲気です。

このように、ペイズリー文様が国を越え、時代を越えて
文様として広く永く用いられてきているということにも、
ペイズリー文様の持つ生命の力が感じられます。

※上の写真の「ペイズリー文様 印度更紗 半巾帯」と、「唐花七宝文様 和更紗 名古屋帯」は花邑 銀座店でご紹介している商品です。

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懐かしのものたち

2013-05-02 | 文様について

presented by hanamura ginza


新緑が美しい季節になりました。
爽やかな風に導かれるように、
いつもよりも遠くまで、お出かけする方も多いのではないでしょうか。
気持ちの良い陽気と、ゴールデンウィークということで、
いずれの観光地も、多くの人々が訪れているようです。

さて、東京の名所といえば、
昔も今も浅草が人気ですね。
スカイツリーができたこともあり、
浅草に行くと、修学旅行生や外国の方に多く出会います。

先日、その浅草で有名なお菓子、「雷おこし」をいただきました。

雷おこしとは、蒸したお米を煎ってから、
水飴や砂糖などを混ぜて固めたお菓子で、
すでに江戸時代後期から浅草のおみやげとして、販売されていました。
雷おこしの雷とは、雷門の「雷」からつけられています。
そして「おこし」とは「家を興す」や「会社を興す」などの
「興す」にかけられ、縁起の良い食べ物とされていたようです。



上の写真は、そのときにいただいた雷おこしで、
仲見世で100年以上もお菓子を販売している
「評判堂」のものです。

よく知られている雷おこしは、
もっと大きなものですが、
こちらの雷おこしは幅が5mm弱、長さ3cm~4cmぐらいの
とてもスマートなかたちをしています。
この雷おこしは、評判堂さんならではのものなのですが、
このように細く切ることができる職人さんがもういないということです。
つまり、いまある在庫が終わってしまうと
スマートな雷おこしは、姿を消してしまうのです。

雷おこしといえば、浅草の名物なので
観光客のおみやげとしてさぞかし人気があるのだろうと思っていましたが、
最近では、さまざまなお菓子が増え、
こういったお菓子は敬遠されてしまうようです。

細い雷おこしは、その色によって青海苔やさくらなど、味も異なり、
食べてみるとほんのりと甘い素朴な味が懐かしくて美味しく、
あっという間になくなってしまいました。

こういったどこか懐かしく、
あたたかみ感じられるおみやげと同様に
浅草の仲見世では、こけしや風車や、鳩笛などの
伝統的な玩具もよく売られています。
最近では、こけしが秘かなブームのようですが、
風車や、鳩笛なども外国の方へのおみやげとして、
喜ばれるようです。



上の写真は、昭和初期頃につくられた絹布からお仕立て替えした名古屋帯です。
全体に和の玩具を散らした小粋な意匠が目を引きます。

さて、小粋といえば、
花邑銀座店では5月3日(金)より、
半巾の帯展を開催します。
これからの季節のおでかけに重宝いただける
小粋な柄行の半巾を数多くご紹介します。
キュッと半巾帯を締めて、
ふらりと懐かしもの探しにお出かけしてみてはいかがでしょうか。

上の写真の「玩具尽くし文様 型染め 名古屋帯」は花邑 銀座店でご紹介している商品です。

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