花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

悉皆屋さんのおはなし-その6-

2008-08-26 | 悉皆屋さんのおはなし

presented by hanamura


「洗い」について

あんなに聞こえていたセミの声も静かになってきましたね。
夜には虫の音が聞こえて、秋の訪れを感じさせてくれます。

そろそろ、夏に着た着物や帯をお手入れにだそうと
考えている方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、夏の着物や帯のお手入れについて
お話しをします。

夏の着物で、気になるのはやはり汗じみですよね。
そこで、悉皆屋さんに「汗じみを取る方法」を聞いてみました。



『汗をかく場所は決まっていますから、
プロは霧を吹いて汗がしみになっているかを
チェックします。
汗をかいているところは水が生地に入っていかず、
水滴になって残るので、その部分を集中してやります。
プロはほんのわずかアンモニアを垂らして生地に水分を吸収させますが、
アンモニアが強すぎると脱色する危険があるので、
個人の場合はタオルをちょっとぬらして上下からたたき、あとは吊るしておけば
いいでしょう。
たたくことで汚れを下におとしますから。』

水を含ませたタオルで生地をたたくだけで、汗じみがとれるんですね。
それならば、プロの方に頼まなくても大丈夫そうです。
しかし、素材によっては注意が必要です。

『水は汗取りにものすごく効果があります。
しかし、麻や縮緬のように縮まないものはいいんですが、
縮んだものをのばすのは、素人の方には厄介です。』

縮みやすい生地のものは、
やはり、プロにおまかせした方が良さそうですね。
それでも心配なこともあるようです。

『染み抜き屋の場合、水で縮んだ生地をまた伸ばすのですが、
そうすると当然工程が増えてしまいます。
だから忙しいときには水を使うのをはしょって、
絶対に縮まない溶剤を使うことがあります。
溶剤を使うと生地に大きなダメージを与えてしまいます。
それを水で中和して戻すのが原則なんですが、
目に見えて分かる加工ではないので、はしょってしまうんです。』

プロが使う溶剤は、着物や帯のような繊細な生地にとっては、
とても強いものなんですね。
そのため、しみは落ちやすいようですが、
水で中和させないと大変なことになってしまうこともあるようです。

『それがそのまま箪笥の肥やしになると、
数年後に箪笥からだすと原因不明のしみになっているというわけです。
結局、面倒だからと工程をはしょったつけが、
数年後に表にでてくるのです。』

しみを取るということは、簡単なようでやはりむずかしいんですね。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は9月2日(火)予定です。


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悉皆屋さんのおはなし-その5-

2008-08-12 | 悉皆屋さんのおはなし

presented by hanamura


「洗い」について

着物や帯をいくつか並べてみると、
実に、さまざまな装飾がされているのが分かりますね。
デザインの違いだけではなく、
織りや、染め方、刺繍にも違いがあり、
とても繊細な技術が用いられています。

そのため、着物や帯を洗うときには、
それらの装飾を損なわないように、
細かな気配りをしなければいけません。

しかし、同じ「丸洗い」でも、
業者さんによってその洗い方は違うようです。(※1)
そして「丸洗い」だけではなく、
最近耳にすることが多い「京洗い」も例外ではないそうです。
悉皆屋さんは京洗いについて

『京洗いと呼ばれるものがどういうものか、
みんなぼかしているので、いちがいにははっきりとはいえません。』

と答えていました。

しかし、「京洗い」や「丸洗い」のように、
最近になってはじまった洗いには、
ドライを用いることが多いようです。



一方、「洗い張り」と同じように昔ながらの方法で
行う「生洗い」という洗い方もあります。

『生洗いというのは、個人の方が昔ながらの方法でやっている、
いわゆる染み抜き屋さん。
机の上に着物を広げて、薬品をいくつか使いながら、
袖口やシミをこすったりたたいて汚れを落としたり、
汗を飛ばしていきます。』

生洗いは染み抜き屋さんの机の上でやっているんですね。
机の上で丁寧に汚れを落としていく「生洗い」は、
「洗い張り」と同じように安心できる洗い方かもしれません。

着物や帯にとっては、昔ながらの方法で
時間をかけて丁寧に洗うことが一番良い方法なんですね。
しかし、その洗い張りでさえも、
用いる原料などが不足して、昔と同じような方法で洗うのは、
なかなか難しいことのようです。

『洗い張りの仕上げのときには、昔は板に生地を貼って
「ふのり」を引いてましたが、
今は「ふのり」がないのでほとんどが合成糊です。
「ふのり」は最高の糊です。
合成糊はものすごく静電気が出るので、
裾なんかにまとわりついてほこりを吸ってしまいます。
仕事をしていると合成糊と「ふのり」のレベルの差が
とても大きいことが良く分かります。
それがわかっていても、今は「ふのり」が少ないので、
みんな合成糊になっています。』

天然の海藻からつくられる「ふのり」(※2)。
この「ふのり」の原料そのものも、なくなっているのでしょうか?

『ふのりの原料は、なくなっているし、高い。
それにすぐ腐るので、置いておけないんですよ。
合成糊は腐る心配がなく、簡単にできちゃう。
そうやって、みんなだんだんとはしょっていってしまうので、
肝心なものがなくなっているんです。』

働き手や、技術が変わっただけではなく、
大切な原料でさえも少なくなっているんですね。

(※1)7月29日(火)更新のブログ「悉皆屋さんのお話-その4-」
をご覧ください。

(※2)海藻の一種を水洗し脱塩して天日にて漂白処理したものが「板ふのり」。
「板ふのり」を煮て糊として用いる。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は8月26日(火)予定です。


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悉皆屋さんのおはなし-その4-

2008-08-05 | 悉皆屋さんのおはなし

presented by hanamura


「洗い」について

愛用した着物や帯は、
季節が変わるごとに「洗い」にだすと、
長もちさせることができます。

しかし呉服には、さまざまな洗い方があり、
着物や帯の状態によって、
洗い方を選ぶことが大事なようです。

前回は、悉皆屋さんにその「洗い」の中から、
「洗い張り」と「丸洗い」について、
お話しをしていただきました。(※1)

そのお話しの中で、悉皆屋さんは
『洗い張りは最高の加工、ドライ(丸洗い)は最悪の加工です。』
と言っていましたね。

しかし、同じ「丸洗い」でも、
引き受ける業者さんによって、その洗い方には違いがあるようです。



『たとえば、個人でやっている染み抜き屋さんに丸洗いを頼むと、
良心的な人は容器に溶剤をいれて着物を浸けて洗ってくれますが、
大きな工場ならドライ機を使っています。』

『洋服のドライクリーニングと違って、
和服のドライは何が加工されているのか分からないので、
ドライはとても難しい。
洋服のドライは強い洗剤を使うので汚れはかなり落ちます。
ところが、和服は簡単に色も落ちてしまう。』

着物や帯にはさまざまな織りや染めがあり、
さらに刺繍などが加えられて作られています。
そのため、着物や帯を洗うときには
細かい配慮が必要なんですね。

『だから、洋服と兼用でやっている着物ドライは危ないんです。
うちの近くにも着物と洋服をやっている安くていいドライ店が
ありますが、10点のうち1点は事故を起こしています。』

10点のうち1点とは、心細くなる数ですね。
これでは安心しておまかせすることは難しいかもしれません。
一方、和服専門のドライ店はどうでしょう。

『和服専門のドライ店は、着物がデリケートなことを知っているので
弱い洗剤を使っています。
しかし、弱いということは洗浄力も弱いということ。
だから、袖口や裾など汚れの強いところは、
機械に入れる前に部分洗いをしているんです。』

同じ「丸洗い」と呼ばれるものでも、
手間のかけ方はだいぶ違いますね。

着物や帯を洗いにだすときには、
親身になって相談に乗ってくれる
悉皆屋さんを選ぶことも大事なことのようです。

(※1)7月29日(火)更新のブログ「悉皆屋さんのお話-その3-」
をご覧ください。

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次回の更新は8月12日(火)予定です。


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