presented by hanamura ginza
まもなく春分ですね。
先日は、各地で春一番が吹き、
桜が開花した地域もあるようです。
暖かな陽射しに誘われて外に出てみると、
今日芽吹いたばかりのような、
瑞々しい新芽をあちらこちらで見ることができました。
春ならではのそうした光景を目にすると、
寒い季節がようやく去っていくのだという安堵感のようなものも沸いてきて、
寒さでこわばっていた顔もゆるんできます。
さまざまな木々が芽吹く
明るい春の山を指して
「山笑う」というように表現するのも、
うなずけるように思えますね。
今日お話しする植物「羊歯(シダ)」も、
この季節に芽吹くものが多く、
笑う山で多く見られる植物の一つです。
とくにぐんぐん育ち、生命力にあふれた姿は
俳句で「羊歯(シダ)萌ゆ」と表現され、
「山笑う」と同じように春の季語とされています。
羊歯は、ワラビやゼンマイ、ヘゴなどを含むシダ植物全般のことを指し、
その種類は約1万種にものぼります。
最古の陸上植物といわれ、
4 億 2000 年前のものとされる化石も発掘されています。
シダ植物は、葉の裏側に胞子嚢(ほうしのう)をつけて胞子をつくることで、
子孫を残す非種子植物です。
花や種子がなくても増殖する姿から、
霊草として扱われていた記録が世界各地に残されています。
古代の西欧では、目に見えないシダの種子を手に入れると
透明人間になれるといった迷信や
たいへんな力持ちになれるといった俗言も生まれました。
実際に、シダ植物は解熱や下痢止め、胃腸薬など
薬草として採取されることも多かったようで、
「魔法の草」ともよばれていました。
日本でも、羊歯は古来より繁栄や長寿を意味する植物とされ、
お正月に飾る鏡餅や、しめ縄などの飾りには、
裏白(ウラジロ)と呼ばれるシダ植物が用いられています。
「裏白」という名前は、葉の裏が白いことから付けられたようですが、
お正月飾りには「共に白髪が生えるまで」
という意味合いで用いられているという説もあります。
羊歯は文様としての歴史も古く、
平安時代の頃からモチーフとなり、
鎧や兜、甲冑などの武具にも羊歯の絵図が用いられました。
また、家紋にも羊歯が意匠化されたりしています。
「羊歯」という文字の由来には、
若芽がヒツジの角のように巻いている形をしているためという説や、
「羊」という象形文字がシダの形に似ているためという説、
長寿への願いを込めて齢垂(しだ)とよばれていたのが、
なぜかやがて羊歯となったという説など諸説あります。
それにしても、古来より羊が棲息してこなかった日本において、
「羊」という文字が何故用いられたのかは、とても不思議なところです。
その名前の由来には、シダ植物の不思議さも感じられます。
実際に、その不思議な生態に魅了されている人々も多く、
羊歯の研究は世界中で行われています。
上の写真は、大正~昭和初期につくられた絹縮緬からお仕立て替えした名古屋帯です。
たたき染めされた地の上に、のびやかなタッチで染めあらわされた羊歯の絵図からは、
太古の昔から生息する羊歯の原始的な生命力とともに、
神秘的でしなやかな力強さも感じられる意匠です。
※上の写真の「叩き染めに羊歯文様 型染め 名古屋帯 」は花邑 銀座店でご紹介中の商品です。
●花邑 銀座店のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は 4 月 3 日(木)予定です。
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