のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『印象派とモダンアート』1

2010-09-09 | 展覧会
サントリーミュージアムで開催中の展覧会『印象派とモダンアート』へ行ってまいりました。

見どころ解説つきで20世紀美術を概括でき、ライトな美術好きから暇さえあれば美術館へ出かけて行くような人まで、広く楽しめる展覧会でございます。

『インシデンタル・アフェアーズ』の記事でも触れましたとおり、サントリーミュージアムは展覧会によって驚くほど色々な顔を見せる美術館でございます。今回は入ってすぐの所に円形のモネ室ができており、プチオランジュリー美術館の様相を呈しておりました。
リノリウムっぽいベージュの床はこの部分にだけ、深みのある青灰色の絨毯が敷き詰められており、白い壁、くすんだ金色の額、そして青がちなパステルカラーの作品と、素晴らしい調和を見せております。モネがさして好きでもないワタクシではありますが、ここでは空間全体のかもし出す一種特別な雰囲気に、覚えずわくわくといたしました。
展示室の様子は↑一番上のリンク先で見ることができます。

モネから始まった展示はルノワール、シスレー、ピサロと続き、ギャラリー入り口のある5階展示室はおおむね印象派の作品で占められております。濃厚なルノワールの裸婦像にいささかげんなりしつつも、久しぶりにお会いしたピサロの「チュイルリー公園の午後」にほっこりし、気を取り直して4階へ。



さて4階へと向かう階段の前には、海に面したこの館ならではの展示室が控えております。一度でもこの美術館を訪れたことのあるかたはご存知でございましょう、三面を白い壁で囲まれ、海に向かう南側の壁面が全部ガラス張りになっている、それは素敵な一室でございます。
展覧会の内容によっては展示室としては使われず、次のセクションへ向かう前の小休止として踊り場的な役割を果たしていることもございました。日差しが降り注ぐ場所なので、作品が展示される場合でも、褪色の心配のないブロンズ像などの立体かインスタレーション作品に限られるのでございますが、この一室を使ってどんな展示がされているか、あるいはされていないか、ということもこの美術館を訪れる楽しみのひとつだったのでございます。今回は、西側の壁際にマンズーの「枢機卿」、東側の壁際には枢機卿と向かい合わせになるかたちでジャコメッティの「小さな像」、その間には海と空を背景にバーバラ・ヘップワースの3つの作品が展示されておりました。

マンズーは枢機卿をモチーフにした作品をいくつも製作しております。大阪の国立国際美術館に所蔵されているものは、ブロンズ製で240cmという長身でございまして、その素材と大きさから厳格な雰囲気を漂わせる作品でございます。本展に展示されているものは高さ約1mの真っ白い大理石製で、斜めに射し込む午後の日差しを浴びて静かにたたずんでおりました。単純化された鋭い造形という点では国立国際美術館のそれと変わらぬものの、こちらはぐっと柔らかな印象でございます。
対して向かいのジャコメッティは、高さ15cmほどの、タイトルどおりに小さいブロンズ像でございます。対象から個人的なものを削いで、削いで、削ぎ尽くされた後に残った「人間」のかたち。骨張った両肩から薄い胴体を経て、棒のように細い足へと落ち込む逆三角形のフォルムは、周りの空間から押しひしがれんとするのを必至に耐えている人のような激しい緊張を見せており、どっしりとした白い円錐形の枢機卿とは対照的でございます。
向かい合う2つの人物像の間に並んでいるヘップワースの球体や半球体は、陽光をうけてきらきらと輝きながら互いを反射し合い、緊張をはらんで対峙する両者の間をとりもっております。

共に人間のかたちを生涯のテーマに据え、独自の厳しい造形を追求したマンズーとジャコメッティ。具体的なものの描写から解放され、繊細でまろやかな形を生み出したヘップワース。この三者が、全体でひとつの作品を形成しているかのようなこの空間に身を置きますと、この美術館がなくなってしまうことをつくづく寂しく思ったのでございました。

次回に続きます。

なおサントリーミュージアムの展示デザインの素晴らしさについてはこちら↓のブログさんが熱く語ってくださっております。
そうよそうよと頷きながら読ませていただきました。

サントリーミュージアムがどれほど素晴らしい美術館だったかということ - 勘違いジャム


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