のろや

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『ロビン・フッド』

2011-01-16 | 映画
去年の年末のことですからもう2週間より前になりますけれども、リドリー・スコット監督の『ロビン・フッド』を観てまいりました。

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あまり期待していなかったせいかもしれませんが、なかなか面白かったですよ。どうしてもラッセル・クロウがかっこいいと思えないワタクシでも最後まで楽しく鑑賞させていただきました。
あまり期待していない作品を何故わざわざ観にいったかというと、もちろんソーターさんもといマーク・ストロングが出ているからなのでございますが、その話はまた後で。

重鎮から若手まで俳優陣の演技はみな素晴らしく、絵づくりはさすがにきれいでございます。衣装もセットも見事なもので、背景などにはCGを使っている所もあったのでしょうけれども、つくりもの感は全くございませんでした。冒頭の戦闘シーンは噂通りの迫力。とりわけ兵士たちに向かってぶっとい矢が雨あられと降り注ぐ様は、音響効果もあいまって、ちょっとおっかないような臨場感がございましたよ。ちなみにソーターさんはインタヴューで「もちろん撮影に使った矢には矢じりがついていないんだけど、それでも当たったらものすごく痛かったよ笑」とおっしゃってました。ああ、特に貴方は頭にガードがないから。

というわけで、決して面白くないわけではなかったのです。
絵を見ているだけでも退屈はいたしませんでした。

がしかし
全体的にお話のチグハグ感が拭えなかったのはなぜかしらん。いまいちのめりこめないというか。

悪役loverの視点から申しますと
まず何といってもワルモノ側の描き方が薄口すぎました。
疲弊した民衆から無理矢理税金を搾り取ったり、農村を略奪した上に無辜の民を納屋につめこんで火をつけたり、報償目当てに祖国と幼なじみを裏切って国家存亡の危機を招くののどこが薄口だとおっしゃいますか。
そこです、問題は。
ひとつひとつを見れば立派な悪徳なんでございますが、これらのワルモノ行為の主催者が、重税はジョン王、略奪はフランス兵、裏切りはサー・ゴドフリー(←マーク・ストロング)と、それぞれ別の人たちなわけでございますよ。悪役フラグが3本も立っているせいで、主人公に対抗する悪の存在がぼやけてしまい、それに伴ってストーリーの焦点もいささかぼやけてしまっているような気がいたします。

上に挙げたメイン悪徳行為3点の全部にからんでいるのはゴドフリーですから、一応彼が全ての黒幕ではあります。しかしそれにしてはアホ王ジョンが中途半端に目立ちすぎるのですよ。役者さんはうまかったんですけどね。彼に悪としての存在感がありすぎるために、このアホ王対策が何よりも重大な問題になってしまい、フランス軍による英国侵略という重大事件がすっかり霞んでしまうのですよ。おかげでクライマックスであるはずの仏軍との攻防は「最大の山場」という差し迫った緊張感を欠き、さんざん前フリがあるにもかかわらず、唐突な印象が否めません。マリアン&森チルドレン参戦の唐突さは言わずもがなですが。

いっそジョン王をもっとへろへろなアホにして、何もかもゴドフリーにそそのかされてやったということにしたらよかったんじゃないでしょうか。ゴドフリーは映画のラストで死んでしまうわけですが、そそのかす佞臣さえいれば、ロビンフッド伝説に繋がる悪王V.S.義賊の構図は崩れないわけですし。
いや、そもそもゴドフリーもフランス軍侵攻もなしにして、アホ王だけを悪役に据えた方がお話がシンプルでよかったのではないかと。何ですか、そんなにソーターさんを使いたかったんですか、カントク。いや、お気持ちはわかりますとも。『ワールド・オブ・ライズ』のハニ役でそれは素晴らしい仕事をしてくだすったソーターさんですものね。

さておき
チグハグ感のことに戻りますけれども、国の存亡の危機ですとか、国王の悪政に苦しめられる庶民といったシリアスな描写に対して、ロビンがマリアンの「夫」として仲間や領民と一緒にあれやこれやする描写はほのぼのしすぎていて、見ていて膝カックンをくらったような気分になりました。ああいう軽い明るい演出をするなら、いっそ政治的な挿話はばっさり捨ててスカッと爽快冒険活劇にしてくれればよかったのに。それなら色々ととんとん拍子すぎるロビンの”出世”ぶりや最後の唐突なマリアン参戦も「こういう映画だから」と納得して楽しめたことでございましょう。

主人公をはじめキャラクターの掘り下げが今ひとつなのも残念な所。ロビンははあれよあれよとカリスマ化してしまうし、リチャード兄ちゃんを嫌っていたはずのダメ王ジョンは対仏戦でいきなり「兄も自ら戦場で闘った!」などと言って参戦してしまうし。ゴドフリーはなにしろ出番が少なすぎて描写が足りません。おかげで黒幕のはずなのにいまいち存在感が薄く、単なる狂言回しのような位置に留まってしまっております。

↓の台詞などはたいへんよかったんでございますけどね。


そうそう、サー・ゴドフリーなのですよ。海外のレヴューで「マーク・ストロングの無駄遣い」と書かれていたのはこういうことだったのですね。

とにかく役回りの重要性に比べて出番が少なすぎ、ゴドフリーという重要人物の背景が全く描かれておりません。マーク・ストロングは善とも悪とも言い切れない複雑なキャラクターや、悪党だけれどもどこか憎めないコミカルな悪人を演じるのがたいへんうまいかたでございます。『ワールド・オブ・ライズ』での仕事ぶりから、監督自身もそれをよく知っているはず。それなのに、そのソーターさんが演じる悪役を充分生かせていないというのは痛恨の極みでございます。
『シャーロック・ホームズ』のブラックウッド卿も一面的なキャラクターだったじゃないかって。
あれはああいう映画だからいいんです。しかし本作のような歴史絵巻で、マーク・ストロングに深みを欠く人物を演じさせるのは甚だ勿体ない。

まあしかし
ソーターさんにくるぶしまで届く黒マントを着せてくれたというだけでも、ワタクシはこの映画に感謝せねばなりますまい。ふてぶてしい態度で指輪を見せびらかすシーンやら、エクソシスト爺ちゃんを精神的にいたぶったすえに刺し殺すシーンなどはとってもよろしうございましたしね。

あれ、不満の方が遥かに多くなってしまった。
重ねて申しますが、面白くなかったというわけではないんでございますよ。

ただツッコミ所がとても多かったというだけで。




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