のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

あいちトリエンナーレ・レポ2

2010-09-21 | 展覧会
さてフアン・アラウホの白い小部屋から一転して、真っ暗に仕切られた隣の空間ではハンス・オプ・デ・ビークの詩的な映像作品が上映されております。

タイトルは "Staging Silence" (沈黙を上演する)。
スクリーンに映っているのは1m四方ほどの舞台。両側から人の手が現れ、小さな模型や豆電球を使って、舞台上に様々な「沈黙の風景」を演出してゆきます。夜のビル街や誰もいないオフィス、廃墟や月明かりの湖といった風景が次々に出来上がって行く、その様子が実に面白い。

その映像にあわせて、何とも不思議で心地よい音楽が途切れなく流れております。タイトルには「沈黙」と銘打っているものの、20分ほどの上映の間に鑑賞者の耳が沈黙を経験することはございません。変な言い方になりますけれども、鑑賞者が沈黙を経験するのは、視覚を通じてのことなのでございます。あたかも、音も色もないモノクロ無声映画が、観客をして声や音や色彩を頭の中で補わしめるように、この作品はあくまでも視覚に訴えることよって観客の中に沈黙の感覚を生じさせます。鑑賞者の中に生起した「沈黙」は、この作品の一部であり、加えられるべき最後のひと筆なのでございます。

鑑賞者の感覚が作品を完成させる、という点では、いかにも現代美術といった趣きの作品でございます。しかし作り出される風景そのものは、何かこう、タルホ的にノスタルジックで、映像と音楽がかもし出す詩的な雰囲気は目にも耳にも心地よく、展示室内では何も考えずにただただうっとりと眺めておりました。また、ミニチュアによっていかにも静かそうな風景を演出する、という行為に伴う若干のウソっぽさ、わざとらしさは大変のろごのみでもあり、いたく心に残ったのでございました。

なおこの作品、アーティストのHPで全編見ることができます。
HANS OP DE BEECK
トップページからartworks→2009と進むと表示される作品リストの下から2番目でございます。ロードに少々時間がかかるかもしれませんが、なに、ほんの数秒のことでございます。大変美しく心地よい作品でございますので、ぜひご覧下さいまし。


次回に続きます。


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