のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

オペラ座の怪人のこと

2010-12-18 | 映画
実を申せばオペラ座の怪人が大好きなのでございます。
しかしジェラルド・バトラーをファントムに据えた2004年の映画化作品は、色々思う所もあって今まで未鑑賞でございました。
色々と申しますのは

1.ファントム好きすぎて見るのが辛い。(馬鹿)
2.クリスティーヌを演じるエミー・ロッサムの容貌がのろごのみではない。
3ジェラルド・バトラーの歌に難がある。サントラを聞いたのですが、何とラウルの方が歌が上手い。これはファントムとして致命的ではないかと
4.ミュージカルをそのまま映画にする必要性がいまいち感じられない

などなど。
しかし昨日テレビで劇団四季の皆様による吹き替え板を放送しておりましたので、意を決して観てみました。

うーむ。
音楽はもちろん素晴らしく、映像は評判通り豪華絢爛であって、もとよりこの話が好きなのろはそこそこ楽しめました。しかしもっとテンポの良さや繊細な感情表現に重きを置くなど、映画ならではの見せ方ができたであろうに、音楽をきっちり使うために映画としての脚本・演出がずいぶん犠牲にされたのではないかと。

具体的にがっかりした所をひとつ挙げますと、仮面舞踏会にファントムが現れるシーンでございます。舞台の方では本当に死神が現れたかのような迫力がありますのに、映画ではどうみてもフツーの人間でございます。おまけにラウルはクリスティーヌを置いてどっか行ってしまうし。おーい。抜き身の剣を持った恋敵の前にいとしい婚約者をほっぽり出してどこ行くんですか。武器を取りに行きましたって?はあ、呑気なことで。ファントムも舐められたもんです。もうちょっと恐れてやってくださいよ、オペラ座の幽霊さんを。墓地での対決シーンもしかり、全体的にファントムが普通に露出しすぎな感がございました。舞台での場面設定は舞台上でこそ生きるのであって、そのまま映画に移してしまってはイカンと思うのですよ。ファントムの顔もあれだけハッキリ見せてしまうなら、もっと大々的にクラッシュしていないと「ただ顔の醜さゆえに世間から隠れて生きねばならなかった」という点についての説得力が無いでしょうに。

というわけで
ロイド・ウェーバーのミュージックビデオとして見ればたいへん結構なものではございましたが、映画としてはどうなんでしょう、これ。

とはいえ「ミステリーだ、オペラ座で...」のくだりから、おだてに乗ってカルロッタ復活!までの流れは、ミニー・ドライヴァーの熱演のおかげもあって実によろしうござました。実の所、常にクチビル半開きで「清純」というよりちとアホっぽく見えてしまうクリスティーヌより、鼻持ちならないけれどもどこか愛嬌のあるカルロッタの方を応援したくなってしまいましたですよ。

ジェラルド・バトラーはごついおっさんというイメージがございましたので、白シャツ黒マントのファントム姿がなかなか似合ているのはいい意味で驚きでございました。

まあワタクシにとってファントムといえば声も姿もチャールズ・ダンスがデフォルトなんでございますけどね。これにかなうものは目下の所ございませんのです。
えっ。ロン・チェイニーですか。あれはあれでいいとして。

Phantom of the Opera 1990 - Trailer


↑1990年製作のTV映画より。老支配人を演じるのはバート・ランカスターでございます。
youtubeには日本語字幕付きのものが全編upされております。法的にどうかということは別として、2004年版を見てつまらないとお感じになったかたにはこちらをお勧めしたいのでございます。

最初がこれ。
The Phantom of the Opera 1/21 (1990 Kopit ver.)


続きを見たいかたは phantom opera 1990 で検索してみてくださいまし。


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2 コメント

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ファウストとオペラ座の怪人 (Angel-of- Music)
2013-04-08 22:01:38
はじめまして。オペラ座の怪人の記事、拝見。1990年のトニー・リチャードソン監督のTV映画のファントムが最高だというご意見に全く共感です。脚本と監督の技量が冴えていますね。ファウストのファイナルをクリスチ-ヌとエリックに歌わせるという趣向は技ありです。マルガレータとクリスチーヌ、若返ったファウストとエリックの姿を二重映しにしたことで、作品に奥行きが出てきて、まことの天使の歌になっています。ガストンルルーの原作にある
「クリスチーヌの歌う『ファウスト』の最後の三重唱を聴いたことの無いものは『ファウスト』を聴いたことがないも同然だ。あれ以上見事に感情の高ぶりを歌にこめ、汚れない魂の清らかな陶酔を表現するのは不可能だろう!」
という一節を思い出しました。ALWは、グノーには太刀打ちできないと思ったのか、意図的に「ファウスト」を無視したようですね。宝塚版のファントムも、おなじシナリオに立脚していながら、このファウストの重唱がでてこないのです。オペラ座の怪人なのだから、安っぽいメロドラマだけではなくて本物のオペラを聴かせて貰いたいものですね。
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いらっさいませ。 (のろ)
2013-04-09 23:30:09
Angel-of-Musicさま、コメントありがとうございます。
2004年版映画のファンの方からお叱りを受けるのではないかと、若干びくびくしながら投稿した記事ではあり、1990年版ファントムを評価するコメントをいただけるとは望外の喜びです。

’90ファントムは脚本がよく練られていて、話の展開や登場人物の行動に説得力がありますね。まあ、カルロッタにネズミぶっかけるのはどうかと思いましたけれども笑。
ファントム/エリックの造形も、生い立ちや不器用さも含めて同情を寄せずにはいられない人物として描く一方で、例えばスーザン・ケイ作『ファントム』のようにエリックよちよち、な昼メロ的展開に陥ることもなく(もしお好きだったらすみません)、絶妙な距離感で描かれていたと思います。

コミカルな部分もシリアスな部分も、好きなシーンを挙げればきりがないほどですが、中でもご指摘の『ファウスト』熱唱シーンは出色ですね。
「マルガレーテ---求愛される者、天上の存在、被害者にして救済者---クリスティーヌ」と「ファウスト---求愛する者、堕ちた存在、加害者にして被救済者---エリック」が歌い交わすという演出は素晴らしいと思います。

しかし、ご指摘いただいて初めて気づいたことなのですが、ミュージカルという媒体でこれをやるのは、なかなか難しいことなのではないでしょうか。
というのも、オリジナルの曲が全編を占める中で一部分だけ既存の楽曲を使うと、そこだけ浮いてしまう恐れもあるでしょうし、オリジナルで『ファウスト』を作曲するとなると、グノーとの比較は免れないでしょう。そうするとおっしゃる通り、さしものロイド=ウェーバーでも「こりゃ分が悪いな」と思わずにはいられないのではないかと。『ファウスト』をバッサリ切ったのは、いわば苦肉の策なではないでしょうか。

ミュージカルでも『ファントム・オブパラダイス』ぐらいぶっとんだ設定にしてしまえば、作曲家ものびのび好き勝手できるんですけどね。

むしろ、ミュージカル映画ではなく、ホラー成分もエロ成分も抑えて、本格的コスチューム・プレイとして映画化していただきたい所です。歌の部分は吹き替えで(その方が歌唱力にがっかりぜずに済むので)。
...と、考えるとやはり1990年版ファントムは悲劇としての『オペラ座の怪人』を描いた、ひとつの完成形だったなあという結論に至るのでありました。
日本版DVDもぜひ発売していただきたいものです。
画像が少々粗くってもいいんです。ワタクシは買いますとも。
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