昨日に引き続いて岡田尊司氏の本です。『パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか 』(PHP新書)からの転載です。
パーソナリティ 障害 は、 一言 で いえ ば、 偏っ た 考え方 や 行動 パターン の ため、 家庭 生活 や 社会 生活 に 支障 を きたし た 状態 と いえる。 「パーソナリティ 障害」 の 前身 で ある「 精神病 質」 という 概念 を 完成 さ せ た、 ドイツ の 精神病理学 者 クルト・シュナイダー は、「 性格 の 偏り の ため に、 自分 で 苦しん だり、 周囲 を 苦しめる もの」 という 定義 を 行なっ た。 現在 の「 パーソナリティ 障害」 の 概念 も、 基本 的 には それ を 継承している。
パーソナリティ 障害 の 特徴、 つまり、 自分 への こだわり と傷つき やす さ、 そして、 信頼 し たり、 愛する こと の 障害 は、 パーソナリティ 障害 が 自己愛 の 障害 で ある こと に 由来 し て いる。 自己愛 とは 何 だろ う。 簡単 に いっ て しまえ ば、 自分 を 大切 に できる 能力 で ある。 それ は、 人間 が 生き て いく 上 で、 もっとも 基本 的 な 能力 で ある。 この 能力 が、 きちんと 育っ て いる から、 人 は 少々 厭 な こと が あっ ても、 すぐ に 命 を 絶っ たり、 絶望 し ない で 生き 続ける こと が できる の だ。
こうした 強い 自己否定 感 は、 境界 性 パーソナリティ 障害 として 知ら れる タイプ で 典型的 に 認め られる が、 それ は、 まさに 自己愛 が 損なわ れ て いる こと から 来 て いる。 逆 に 弱 さや 傷つき やす さを 補お う と、 自己愛 が 過剰 に 肥大 し て いる 場合 も ある。 自己愛 性 パーソナリティ 障害 と 呼ば れる もの だ。 境界 性 パーソナリティ 障害 が、 自己愛 の 病理 を 抱え て いる こと を、 最初 に 指摘 し た のは、 ボーダーライン 治療 の パイオニア でも あっ た マスターソン で ある。 マスターソン は、 境界 性 パーソナリティ 障害 と 自己愛 性 パーソナリティ 障害 が、 自己愛 の 障害 の 表裏 の 両面 で あり、 競争 に 勝ち抜き、 自信 たっぷり に 振舞う「 自己愛 型 防衛」 の 成功 と 破綻 によって、 いずれ の 側 にも 移行 し うる こと を 示し た。
その後、 早期 に 母親 の 愛情 を 奪わ れる「 母性 奪」 が、 子供 の パーソナリティ 形成 に 重大 な 影 を 落とす こと が 知ら れる よう に なっ た。 今日 では、 生後 一年 くらいの 間 に 形作ら れる「 愛着」 パターン が、 その後 の 対人関係 や 子育て にも 影響 する こと が わかっ て いる。 イギリス の 児童 精神科医 ウィニコット は、 小児科医 として 働く 中 で、 情緒 や 行動 に トラブル を 持つ 子供 が、 赤ん坊 の 頃 から すでに 情緒 的 発達 に 問題 を 抱え て い た こと に 気づい た。 それら の ケース では、 母親 が さまざま な 理由 で、 子供 に 全面的 な 愛情 を 注げ て い なかっ た。 ウィニコット は、 子供 の 自我 が 健全 に 育ま れる ため には、 彼 が「 母性 的 没頭」 と 呼ん だ、 子供 と 一体化 し た 熱中 が 何 よりも 必要 で あり、「 ほどよい 母親」 の 愛情 と 世話 によって、 子供 は 自分 の 存在 を、 連続 性 を 持っ た 確か な もの として 感じ られる よう に なる と 考え た。 この「 ほどよい」 とは、 やり すぎ ない という 意味 では なく、 幼児 の 欲求 を 以心伝心 で 適切 に 満たす、 乳児 と 一体化 し た という 意味 で ある。 逆 に 母親 が、 人生 の 出発 の 段階 で、 掛け値 の ない 愛情 を 注げ なかっ たり、 必要 な 共感 と「 だっこ」 を 与え られられ ない と、 自我 の 連続 性 の 発達 は 損なわ れ、「 本当 の 自己」 とは 別 の「 偽り の 自己」 に 分裂 を 起こす と 考え た。 フロイト 派 の 精神分析 家 バリント は、『 基底 欠損』( 邦訳『 治療 論 から み た 退行』) において、 従来 の 精神分析 的 手法 では、 改善 する どころか、 病的 な 退行 を 引き起こす 症例 を 報告 し た。 そうした 症例 では、 自我 が 脆弱 で、 問題 に 向かい合い、 葛藤 する のでは なく、 依存 的 な 二者 関係 に 陥っ て いく。 バリント は、 こうした 状態 を、 根本的 な 障害 という 意味 で「 基底 欠損」 と 呼び、 乳児 の 段階 で、 母親 から 適切 な 愛情 と ケア を 受け られ なかっ た こと に 由来 し て いる と 考え た。 ウィニコット の「 偽り の 自己」 も、 バリント の「 基底 欠損」 も、 重い パーソナリティ 障害 の 状態 と 考え られ、 その 原因 が、 人生 の 最 早期 の 養育 に ある こと を 示唆 し た 先駆 的 な 業績 と いえる。(以上)
浄土真宗が、現代の病理とも言える事柄に有効に対応できるみ教えであることを語っていくことも大事なことです。ウニコットの「独りでいる能力」と「親鸞いちにんのため」をからめた法話を書いたことがあります。以下、参照。
https://www.hongwanji.or.jp/mioshie/story/000572.html
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