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仏教ライフを考える西原祐治のブログです

グりーフと人間的成長

2024年05月09日 | 苦しみは成長のとびら
『グリーフサポートと死生学』 (放送大学教材・2024/3/20・石丸彦・山崎浩司著)からの転載です。

4。グりーフと人間的成長
 死別を含む困難な出来事や外傷体験を綛験しか人々における肯定的な変化や人間的な成長は,外傷後成長(posttraumatic growth : PTG)と呼ばれる。従来の疾病モデルを見直す動きを背景に1990年代から2000年代にかけて,心理や医療・福祉,教育などの学術分野で,研究が盛んに行われたテーマである。外傷後成長とは「大変な心の苦しみを伴う出来事の精神的なもがきの結果生じる,ポジティブな変容」と定義される(Tedeschi&Calhoun,2004 ; 宅,2016)。ストレス関連成長,有益性発見などと呼称されることもある。
 外傷後成長を評価・測定するための汎用尺度として,Tedeschi&Calhoun(1996)が開発したPosttraumatic Growth lnventoryがよく知られている。この尺度では,・他者との関係,・新たな可能性,・人間としての強さ,・スピリチュアルな変化,・人生に対する感謝の5領域で外傷後成長を捉えている。5つのPTGの領域の中で,「人生に対する感謝」は国や文化にかかわらず広くみられるのに対して,「人間としての強さ」や「スピリチュアルな変化」は文化によって大きな違いがあるとされる(宅,2014)。
 外傷後成長の生起過程に関して,Tedeschi&Calhoun(2004)の理論モデルによると,深刻な出来事が個人のもつ世界についての想定を打ち砕くとき,人はその体験の意味を探求すべく動機づけられ,その過程で現れるのが外傷後成長であると理解されている。しかし一方で,成長は複数の過程から生じるもので,他者との体験の共有や他者への依存を通して人間関係での肯定的変化がみられるとの意見(McMi・en,2004)や,自尊心を維持するための認知的な防衛反応に過ぎないのではないかとの指摘(Taylor,1983 ; Davis &McKeamey,2003)もある。また,理論モデルの改訂版では,外傷後成長が必ずしも最終的なゴールではなく,その経験が「現実の受容」や「英知の拡大」をもたらすことを通じて,ウェルビーイングや人生に対する満足度を高めることが示されている(宅,2016)。
 こうした困難な出来事を通しての人間的成長を理解する上で留意すべき事柄として,・人はすべての面において成長を経験するわけではなく,また何の成長も組験しない人もいること,・成長がみられたからといって,苦痛や苦悩を綛験していないわけではないということ,・成長が経験されるからといって,悲劇や喪失は望ましいこと,必要なことと捉えられるべきではないこと,の3点が指摘されている(Calhoun,&Tedeschi,2001/2007)。
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