仏教を楽しむ

仏教ライフを考える西原祐治のブログです

相手の濁りに関わる

2009年12月28日 | 苦しみは成長のとびら
読売新聞の人生案内(21.12.27)を続けて読んでみた。「アルコール依存症」という用語に宗教的な興味を持ったからだろう。以下の通りです。


義父が再びアルコール依存
30歳代主婦。夫と幼い子の3人暮らし。夫の父は以前アルコール依存症と言われ一度入院したことがありました。
 一時はアルコールなしで過ごせるようになり、夫も私も喜んでいました。義父は「孫のためにも酒はやめる。つらい治療はたくさんだ」と話していました。
 ところが、また酒を飲み始めてしまったのです。量も半端ではありません。その上、寂しくなっては電話をかけ、「俺はどうなってもいい」と話し、親類からは「一人にしてはおけない。同居しろ」と言われます。夫は「また飲んで、仕方ないな」とのんきな様子。私がいらついてもどうしようもありませんが、やはり同居を考えた方がいいのでしょうか。ただ、同居で義父が酒をあきらめるとは思えません。
 飲酒がわかってから孫には会わせていません。夫には「入院をさせよう」と話しています。(埼玉・I子)

 何より、お義父様を思いやるあなたの優しい心根に感動を覚えます。そして、解決の糸口はお手紙の中に出尽くしていると感じました。今必要なのは、事の順番を整理する作業だけです。
 まず、お義父様は間違いなく「アルコール依存症」。それも軽くはない。このままでは心身に重大な問題が生じますので、再入院させねば危険なレベルと思います。もちろん本人が入院を望めば問題ないのですが、そうでない時は、やはり息子であるあなたのご主人が本気で説得せねばならない。しかし、どうもわかっておられないようですね。実の親が危機的状況にあることを、何としても理解してもらうこと。まず、これが出発点です。
 次のポイント。あなたが気づいておられるように、「アルコール問題を解決するために同居」してもうまくいきません。この状態で同居すれば、一家の結束を乱し、共倒れになるだけでしょう。確かにお義父様も本音では同居を望んでおられると思いますので、むしろ「将来同居するための条件」として、「まずアルコール依存症を治すことこそ必要!」と愛を込めて叫ぶことです。その思いはきっと通じると信じたいです。
 (野村 総一郎・精神科医)
(2009年12月27日 読売新聞)

回答者の視点は、科学的に問題を分析して解決の道を提示することです。関わる問題は、相手の苦しみの原因となっている事柄です。その点では満点の答えかもしれません。

こうした人生相談ではなく、カウンセリングでの関わりは、①相手の事柄に関わる、②感情に関わる、③その人の欲求に焦点を当てるなどと言い、感情に関わることを重要視します。上記の回答者の関わりは、感情ではなく、投書者の問題(事柄)の解決です。

私の視点は、感情というよりも相手の濁り(苦悩)に関わることを重要視しています。それは濁りの中にこそ自己超越のヒントがあるという仮説によっています。ところが先の質問のように、私なりの関わる点が見いだせないと、私が次に大切にするのは人情のようです。

実際は次のように答えないだろうが本心からいえば「人に電話をしてくる程度なら、そのうち肝臓を悪くするか脳梗塞でもおこして、お酒が飲めなくなるから、飲ましてあげたら」となります。

それは話のついでとして、「私なりの関わる点が見いだせない」とは、その人が抱いている関心事が、自己実現や自己超越といった問いとは無関係の問いであることです。(あくまでも私の見立て)

たとえばアメリカ合衆国の心理学者・アブラハム・マズローが、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で理論化している。(マズローの欲求段階説)

マズローは、人間の基本的欲求を低次から

1. 生理的欲求―生命維持のための食欲・性欲・睡眠欲等の本能的・根源的な欲求
2. 安全の欲求―衣類・住居など、安定・安全な状態を得ようとする欲求
3. 所属と愛の欲求―集団に属したい、誰かに愛されたいといった欲求
4. 承認の欲求―自分が集団から価値ある存在と認められ、尊敬されることを求める欲求
5. 自己実現の欲求―自分の能力・可能性を発揮し、創作的活動や自己の成長を図りたいと思う欲求

上記の五段階を仮説として用いるならば、標記の人生相談はレベル2です。レベル1でも2でも、その欲求そのものが問題となるならば、レベル5の問いとなります。たとえば本能そのものを疑問視するといった問いです。

「義父が再びアルコール依存」の人生相談に関わって見えてきたのは、私が人との関わりの中で大切にしたいと思っていることが、少し見えてきた点です。
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