(1)ウクライナ軍事緊張問題で仏とともに露との仲介外交(agency diplomacy)をしている独ショルツ首相が「一番大事なのはお互いに良い話し合いで解決することだ」(報道)と述べているが、仲介外交ではそうはならない。
(2)露はNATO不拡大を求めてウクライナのNATO加盟を阻止するためにウクライナ国境沿いに15万人規模の露軍を集結して軍事演習をして圧力をかけており、米、NATOとしては国家自由意思によるNATO加盟を支持してどちらに転んでも、米露双方が引き下がっても「お互いに良い話し合い」にはならない。
(3)独はウクライナの軍事援助として国内法などの制約もありウクライナに「ヘルメット5千個」を送ると発表してウクライナを失望させたといわれて、失礼ながら災害避難訓練ではなく露軍15万人が国境沿いに集結して侵攻危機がいわれる中での軍事危機でのことだ。
(4)仲介外交のむずかしさだが、一方で軍事圧力が有効な手段だとなれば軍事力優位の国はことあるごとに軍事力を背景に圧力をかけることが常態化して力による現状変更がまかり通ることになり、双方引くに引けない政治的、軍事的事情がある。
露のラブロフ外相は米国、EUとの話し合い、協議を進める意向を示しているのは、露軍による軍事侵攻圧力が続く中で比較できるだけ露のNATO不拡大が受け入れられることにより危機回避を期待したものであり、外交戦略でもある。
(5)露にとってはNATO内の米(露との軍事的対決)と仏(ウクライナ非加盟、中立)と独(露の天然ガス供給維持)の足並みが一致せずに、それぞれに思惑が優先して露との話し合い、協議で解決に向かいたい意向が反映されていることが露の強気の外交軍事対応に向かわせている要因だ。
(6)今回の仲介外交の意図、目的はつまりは時間稼ぎで、軍事圧力を受ける側が国内避難、退避の時間確保に防衛網の組織的協力、支援、配備をするための時間稼ぎと、国際社会、国連安保理などの露への非難、批判の高まりを待つ戦術だ。
(7)米露対決問題は国連安保理ではともに拒否権を有して現実的解決には結びつかないが、国際社会の注目の中で最低国連安保理で議論する意味はある。EUは天然ガス供給体制で露に大きく依存しており、露の意向に全面対決することはEU利益にはならないもので、それが米国との露対決の姿勢の温度差となって米国の露との軍事対決姿勢と違って仲介外交に取り組ませている事情だ。
(8)それを十分承知した露のしたたかなウクライナ軍事圧力によるNATO不拡大を迫る戦略で、問題を複雑化させている。