(1)プロ棋士の頭脳は小宇宙(microcosm)といわれて、大局観(general situation)がすばらしい、すぐれているといわれる。宇宙は成り立ちもわからずに、どこまでもどこまでも永久に続くのか、終りはあるのかはわからずひろがる空間でとらえどころのないところが宇宙観で、プロ棋士の頭脳も「とらえどころ」がない。
(2)大局観のすばらしさ、すぐれているのは全体局面を一気に果敢に見通す「とらえる」頭脳、能力で、パラドックス(paradox)として宇宙観につながる。こういう頭脳、能力は研究者、芸術家、経営者など広く創造のエネルギー世界で力を発揮する能力だが、「政治」の世界ではほとんど見たことがない。
(3)人類は幾多の困難、災難、危機に見舞われてきて、乗り越えてはきたけれども、犠牲も損失も多く経験してきて今また人類は地球温暖化、新型コロナウイルスパンデミックの中で苦戦、戦いの中で中心を担う政治の世界では宇宙観、大局観が欠如して、人類に降りかかる不幸をなかなか振り払うことができずにくり返して前に進めないでいる。
(4)人類は第一次、二次世界大戦を経験してきたが、今またウクライナ軍事緊張を巡る米国、NATOと露の勢力争いでバイデン米大統領からは「世界大戦」という言葉まで飛び出している。ここはぜひ宇宙観、大局観にすぐれたプロ棋士の政治の世界での能力、影響力発揮を期待したいところだが、プロ棋士が政治家として活動している話はまず聞いたことがない。
(5)それどころか最近になってプロ棋士として初めて公認会計士資格をとったという話が話題として聞かれるほどで、このたび19才で史上最年少で五冠を獲得した破格の藤井聡太五冠は将棋に専念するために学業を断念する決断をしている。
プロ棋士となると厳しい、厳格なヒエラルキー競争世界を勝ちあがることが求められて、他人事にかかわるスキもヒマもないというところだ。
(6)しかし、すぐれた宇宙観、大局観の頭脳、能力を持つプロ棋士が政治の世界で力を発揮してくれることがあれば、政治も変われるのではないのかと思うし、当然期待したくもなる。プロ棋士がなかなか本職以外に社会と深くかかわることがみられないのは残念で、とりわけ政治の世界にこそ必要なすぐれた宇宙観、大局観をみせているだけに、政治家としての力量にも期待したくもなる今日的政治事情だ。