(1)今どき言及するのもどうかとは思うが、かって当時安倍首相は北方4島返還問題を巡って露プーチン大統領とは異例の多さの首脳会談、交渉を重ねてきた。プーチン大統領はかっての日ソ共同宣言での2島返還同意に言及して自らもたしなむ柔道になぞらえて2島・2島分離返還の「引き分け」論を持ち出して交渉に前向きな姿勢をみせたこともある。
(2)当然日本固有の領土4島一括返還を求める日本としては受け入れられない条件で、しかし安倍首相も自身の任期中での解決のレガシーとして結果を残したい意向からか次第に2島返還論に傾いて行ったともいわれている。
プーチン大統領との40回以上の異例の多さの日露首脳会談で安倍首相にも「手ごたえ」を感じる発言もみられたが、いつしか引きずられて2島返還論に傾いていった頃から露の「譲らない」国益主義を実感させられていったのだろう。
(3)その後露の態度は変化していき、プーチン大統領からまずは日露平和条約締結優先、露極東地域への日本側の経済開発協力の意向が示されて、ラブロフ外相からは日本側が北方4島は法的に正式に露領土になったことを認めるよう迫る、要求する意向が示されて、安倍首相が個人的に友好関係にあるとしてきたプーチン大統領との北方4島返還交渉、問題は露が国益主義の原則に立ち戻り、解決は振り出しに戻った。
(4)その後安倍首相は国内に森友、加計問題、桜を見る会疑惑が国会で野党から追及を受けて外交どころでなくなり、健康上の理由で退陣することになる。露のプーチン大統領は手始めは日ソ共同宣言に従うとみせかけて日本側の期待、可能性に含みを持たせ、露の本音である日露平和条約締結、経済開発協力に向かわせようとする戦略だったことがわかる。
(5)安倍首相はプーチン大統領との異例の多さの日露首脳会談、交渉に自信を持ってプーチン大統領とは何でも言い合える個人的友好関係にあると思い込み、最後はプーチン大統領の本音、切り札に落胆、失望させられるという露の国益主義、外交戦術の強さを思い知らされた。
(6)今回の露のウクライナ軍事侵攻問題も米国などは露軍によるウクライナ軍事侵攻の確証は「ある」としていることに、ラブロフ外相は露にはそんな計画はないと否定し続けたが、結果は「どちら」が真実を語り、「どちら」が「ウソ」(lie)をついていたのかは歴然だった。日露北方4島交渉の戦術、思惑につながる露の絶対的国益主義だ。
(7)「ロシアのウソ」が露、プーチン大統領を国際社会から、あるいは露国内からも見限られることにつながるだろう。