大森南の区有地がアスベストで土壌汚染されていることがわかりました。(2009年6月11日/6月18日活動報告を参照)
この土地は、大田区が出張所と産業支援施設を建設する予定です。建設に当たり、区は、4億円をかけて土壌入れ替えを行う予定です。
これは、アスベスト工場跡地のアスベストによる土壌汚染を行政が初めて処理するケースです。
大田区は、取得した土地からアスベストが見つかったので安全に処理し、活用するとしていますが、アスベストという飛散すれば命に関わる工業製品が土中に投棄されている事実に対する対処としてはあまりにもお粗末です。
しかも、ここは、過去に、アスベスト製造工場が操業していた土地であり 、周辺には環境被害者がでていることも判明しています。
今回の土壌汚染とその処理にはどのような課題があるのか、「中皮腫・じん肺アスベストセンター」永倉冬史さん「神奈川労災職業病センター」西田隆さんからお話しをうかがいました。
【土壌が汚染された経緯】
平成19年11月、東京労災病院が大森南地域にアスベストによる環境被害者がでたことを公表したのを受け、大田区は、平成20年1月から3月に健康調査を行い、報告書を作成しています。
報告書は、原因を特定していませんが、大田区は、公表直後より、㈱ミヤデラ1社のみに聞き取り調査を行ってきました。
ミヤデラへの聞き取り調査からは、当時、かなりの規模でアスベストを取扱い生産していたことや、発がん性の高い茶石綿も一部取り扱っていたこと。集塵機などの防塵対策が取られていない時期のあったこと、窓をあけて操業することもあったことなどがわかります。
また、プールを作り、原料(=アスベスト)を回収するため、製品や廃棄物をそこに入れていたことなどもわかっています。
大田区は、こうした詳細な聞き取り調査を行いながら、因果関係は特定できなかったとする一方で、他の原因究明のためのヒアリングや調査は一切行っていません。
一方で、大田区は、「事業の運営を不当に害する可能性が認められるため」として、ヒアリング内容の一部を公表していません。事業とは、大田区なのか、ミヤデラなのか疑問の残るところですが、少なくとも、現在は取り扱っていない「アスベスト」に係る操業内容において、区民の健康より優先して非開示とすべき内容があるのでしょうか。
【被害者と原因との関係から】
大田区では、被害者とその原因とが明らかになっていませんが、たとえば、横浜市のA&Aマテリアルは、遺族に対して2700万円が救済金として支払と共に、胸膜プラ―クの所見のある住民に対して、年2回の検診のつど3万円を支払うことで合意しています。
大田区では、今年7月よりアスベストフォローアップ検診をスタートさせましたが、自己負担¥1000を支払い検診を受けなければなりません。
原因を特定することは、今後の被害者救済において非常に重要なポイントとなります。
【土壌入れ替え工事の説明と安全性】
大田区は、アスベスト土壌処理についての説明会を開催していなかったため、先日の7月26日に説明会を行っています。
土壌の入れ替え工事については、アスベスト処理に精通したコンサルタントのアドバイスを受けながら進めていますが、調査を行ったのは、10mメッシュ(一部5m)で、土中の様子は推測に過ぎないため、十分な対策が求められます。
特に、仮囲いをおこない、飛散防止のために内部の圧を下げるとしているかたまりの見つかった周辺は、どこまでを囲うのかの線引きがあいまいなうえ、土の上に果たして密閉した空間をつくることができるのかも気になるところです。
【土壌処理費用と汚染者負担の原則】 また、大田区では、土壌処理を、出張所用地部分と産業支援施設部分に分割し、建設業者と土壌処理業者に発注しようとしています。
この場合、再三指摘しているように、安全性確保のための十分な費用をアスベスト土壌処理に投入できる保証がなく、建設業者が再発注する業者が安全な工事を行うことができるのかという問題があります。
区は、出張所の建設を地域住民が急いでいるといいますが、現在も出張所はあり、なぜ土壌処理を一体的に行わないのか疑問が残ります。
また、区は、前所有者である大田区土地開発公社から米山紙商事に損害賠償請求すること言っていますが、何をもって損害額とするのでしょうか。
【大田区所有外のミヤデラ工場跡地の安全性】
どうして土の中からアスベストが見つかったのか大田区に聞いたところ、操業していた際に空気中に飛んでいたものが落ちたのだろうという説明でした。
空気中に飛散していたアスベストが、これほど大量に土の中から出てくるとするなら、操業時の状況はいったいどうだったのでしょうか。
区の説明通り、空気中のアスベストが土の中にあるとするなら、周辺の土地についても、また、残りのミヤデラの工場跡地についてもアスベストがあるのか無いのか、大田区は、調査させる必要があるのでは無いでしょうか。
過去に、周辺の土地の建物を建て替える際に、アスベストが出てきたため、ミヤデラに申し入れたという事例もあったようです。
アスベストは、土壌汚染対策法の対象物質ではないため、民間が自主的に調査しない限り土中のアスベストは特定されず、アスベストが土中にあれば、将来の解体や建て替えに時にアスベストが飛散する恐れがあります。
大田区が、この土地のアスベスト土壌汚染問題の原因究明を放置することは、今後の周辺の土地の対策を放置することにもつながるのです。
大田区は、そこが、アスベスト工場の跡地という理由でアスベストの土壌調査を行い、結果、アスベストが見つかって対処することになっていますので、残りのアスベスト工場跡地にアスベストが放置されている可能性が無いとは言い切れないでしょう。
新たな被害者を出さないためにも、今、大田区のとるべき対処が非常に重要になります。
■ヒアリング内容から抜粋■
昭和10年 大森工場操業開始
昭和18年ころ 最盛期(女工さん100人規模)
生産のピークは昭和24年~34年ころ
昭和30年代 石綿を使ったプラント、船舶工事が主体
昭和45年 集塵機設置
昭和63年8月 石綿製品製造全面中止
昭和63年~平成6年 ケイ酸カルシウム製品の製造や倉庫として使用
■操業内容■
・石綿板、石綿布、繊維を編んで棒状に
・95%白石綿5%茶石綿
・切断機使用
・敷地内にプールがありプールの水に浸して廃棄していた
プールは平成1年旧工場解体時に解体
・作業時に窓を開けることはあったかもしれない