夏霧の動く山頂ハイヒール 谷口加代 「滝」7月号＜滝集＞

　「山」と「ハイヒール」とは思い切った取合せである。ハ
イヒールで山に登る人はいないが一瞬「えっ」と思わせる仕
掛けが楽しい。夏霧の掛かる山頂を遠景として、ハイヒール
は、作者の仕事靴なのでしょう。もしかしたら山は富士山で、
心の中に見ているのかもしれません。富士山がユネスコの世
界遺産に登録されたのは6月22日。掲句が詠まれたのは、登
録がほぼ確実とその発表を待っている頃と考えると、「動く」
が巧みな働きをして、ますます夏霧のかかった富士山がくっ
きりと目の中に描がかれます。ハイヒールをコツコツならし
て仕事に向かう作者のみならず、地球の宝物になった富士山
が晴れがましいですね。(Ｈ)