ねむたいむ

演劇・朗読 ゆるやかで懐かしい時間 

自分にとって特別なもの

2012-11-11 | Weblog
1日に1イベントをこなすのががやっとの私にしては、昨日はちょっと詰め込んだ一日だった。

お昼にアトリエ劇研でトリコAの「ロウヴァ」を観る。
始まって15分ほどしか記憶がない。拍手で気が付くと目の前で役者さんたちが並んで挨拶していてる。知らない間に終わっちゃったんだ。びっくり。芝居を観に行って、こんな風に熟睡してしまったのははじめてだ。朝飲んだ風邪薬のせいかもしれない。したがって、内容は何もわからないまま。もったいないことをしてしまった。

バスで出町柳まで移動して、飛鳥井さんの千本ノックを受け、目を覚ます。

夕方、村山槐多が少年の頃過ごしたという、今出川寺町西入ルあたりの古い商店街をうろうろした後、夜、またバスで、今度は西陣へ。町屋を改造した西陣ファクトリーで広田ゆうみさんの朗読・別役実の「星の家ー黒い郵便船その2」を聴く。
女優の広田さんは、中学生の頃に学校の図書館で別役実の童話に出会い、その時の感動を大切にして、大人になった今、それを定期的に朗読するというワークをされている。

私も別役実の童話は好きで、よく読んだ。
「淋しいおさかな」や「なまえのないねこ」など、今も忘れられない作品がいくつもある。すべてが荒涼としていてひっそりと淋しい。みんなひっそりと生きてひっそりと死んでいく。その淋しさが好きだった。

以前、広田さんの「盲の馬ー黒い郵便船その1」を聴きに行った時、なんとも懐かしい感じを受けて、さっそく本棚でほこりをかぶっていた別役実童話集を読み返してみた。本棚には「星の街の物語」と「淋しいおさかな」の2冊しかない。もっと買ったはずだけど。入りきらない本を詰め込んだままの段ボール箱の中を調べてみる。
捨てられないけど今は読まない、あるいは恥ずかしくて人前に出せない、昔読んだ懐かしい本や雑誌や漫画がたくさん出てくる。
詩とメルヘン、現代詩手帳、寺山修司、大島弓子、高野文子、岩館真理子エトセトラエトセトラ。
あった。別役実の「黒い郵便船」。たぶん当時の私は、このタイトルに惹かれて買ったのだと思う。中の「空中ブランコ乗りのキキ」は読んだ覚えがある。でも、肝心の「黒い郵便船」は読んでいなかった。20数年の時を経て、広田さんの声を通してやっと物語を知ることが出来た。

私が投げ出してしまったこの長くて暗い物語を、中学生だった広田さんは息を詰めるようにして読んだのだ。
信濃デッサン館の窪田誠一郎も青春時代に槐多の絵に出会い、その時の感動が今の仕事に結びついていると言っていた。
「自分にとっての特別なもの」を見つけて、ずっと大切に育んでいく。なんて幸せなことだろう。

ふと、私の特別なものっていったいなんだろうって、考えてみる。
書くことだろうか? 表現することだろうか? 何を? どんなふうに?
ため息が出てくる。特別なものは、いつまでたっても、夢の途中だ。