常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

名著の重み

2022年09月21日 | 読書
神谷美恵子の名著、『生きがいについて』を枕頭の書にしたのは、失礼な話だが、自分の睡眠と関係している。高齢になって、眠りが浅くなり、夜中に何度も目覚めてしまう。この本を枕頭に置けば、ほんの2、3頁で眠気が戻ってくる。そんな気持ちで枕頭に置いた。この本はかなり昔に、仕事や人間関係に悩んだとき、書店で求めたものだったような気がする。名著であることは知っていたが、ついぞ読み通すこともなく、この本の価値を知らないまま本棚に、置いたままになっていたのだと思う。

神谷はハンセン病の療養施設で、生きがいを失った患者によりそいながら、その人たちが、絶望のなかで朽ちることない希望や尊厳を見出していくなかで人間の「生きがい」についての思索を掘り下げていく書である。この本を枕頭の書にしてから1週間ほど経ったであろうか、生きがいを失う人間は病気の人だけでなく老人になって、老い先が短くなっている、つまり自分のような存在もその範疇にあることを知らされた。丁度、山登りの楽しさを生きがいにしてきたが、突然の事故で、その楽しみを失った時期に重なっていた。

2、3頁で眠気をもよおする本、だが、読み続けることを促すエピソードにも満ちている。ブログ仲間のクリンさんが取り上げた数学者岡潔が文化勲章を受章した手記が、新聞の記事のまま紹介されている。そこで語られるのは、子どもの頃に山で蝶を見つけたよろこびと数学の研究や発見のよろこびは同質のもの」であること。また使命感を持って生きることが生きがいにつながっている。その例として、ナイチンゲール、シュバイツァー、ジャンヌダルク、そして宮沢賢治があげられる。

自然との融合体験。日本の青年の手記を読みながら、自分が自然のなかで感じた喜びと青年の体験の同一性。プルーストの『失われた時をもとめて』、パールバック、唐木順三『無用者の系譜』など読んだ本、読みかけの本から引用が「生きがい」の観点から随所にちりばめられている。少しづつ読み進めて最後に行きついた感動の言葉。

「死刑囚にも、レプラのひとにも、世のなかからはじき出されひとにも、平等にひらかれているよろこび。それは人間の生命そのもの、人格そのものから湧きでるものでなかったか。一個の人間として生きとし生けるものと心をかよわせるよろこび。ものの本質をさぐり、考え、学び、理解するよろこび、自然界のかぎりなくゆたかな形や色をこまかく味わいとるよろこび。みずからの生命をそそぎ出して新しい形やイメージをつくり出すよろこび。こうしたものこそすべてのひとにひらかれている。」

眠ることを促すはずの本が、この感動のために眠りをわすれさせ、次に読むべき名著を探す。一つはロジェ・カイヨワ『遊びと人間』、もう一つはアラン『幸福論』。そしてこの『生きがいについて』の再読。もっと、もっとこの本の重みを心にとどめて置きたい。
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