早朝、少し靄っている空に、飛行機雲が一筋、西へと延びていた。飛行機雲がでるのは、大気に湿気が多いせいらしい。雲は刷毛で刷いたような巻雲。この雲には、悪天を予告するものと、含水量の少ない晴れ巻雲の2種類があるらしい。見た目では、どちらであるのか判別がつかない。しかし、巻雲がある朝の空は気分を明るくする。今朝は、川沿いの道を歩いた。瀧山から流れてくる川音は、しっかりとした音を響かせる。
川の辺を歩きながら、こんなことをつぶやいた人がいる。「人生って面白い芝居だよ。つまり誰もが主役として生きて、演じているのだから。ただそのことに気づいていないだけだ。」確かに、川のほとりを歩きながら、空に浮かぶ飛行機雲を眺め、川の音を聞き、草藪のなかの虫の音を聞いていながら、朝の自分が幸福につつまれていることに気づかないこともしばしばだ。
「気づく」ということが大切なことだと、いまさらのように知らさせる。精神科医の樺沢紫苑は『三つの幸福』のなかで述べている。「小さな幸福」に気付けない人は、「大きな幸福」に気付けない。」朝の歩きで、周りの秋の美しさに包まれていることの幸せに気付いて、そこから大きな幸福が訪れる。
秋の空どこかなにかを呼びつづけ 矢島渚男