
朝、坂巻川の桜を見に行くのが日課になった。今日は5分咲き、満開の日を迎えるまでが桜の見ごろだ。蕾が混在して、風に吹かれても落ちない強さがこの時期の桜にはある。今日はどこまで開花が進んだか、それをこの目で確認する。そして、その深い美しさを日ごとに確認する楽しみがある。日本人が桜を好むには理由がある。日本の国生みの伝説でもある神話の世界に桜が登場する。此花開耶姫(コノハナノサクヤヒメ)という女神がいる。この女神の依り木が桜であり、女神は桜のように美しく春に降臨する。その父は国の神であオオヤマツミノカミの神であった。

天孫としてこの国に降臨したのは、天照大御神の孫にあたるニニギノミコトであった。降臨した地は筑紫の高千穂である。その地の笠沙の岬で麗しい女神に出会う。その女神こそコノハナノサクヤヒメであった。桜のように明るく美しい女神であった。ほとんど一目惚れでニニギノミコトは結婚を申し込む。父親のオオヤマツミノカミの神は承諾したが、もう一人の娘で姉の石長毘売(イワナガヒメ)二人をニニギノミコトのもとに送った。だが、イワナガヒメは妹に比べ不美人であった。そのためニニギは姉を断り、コノハナノサクヤヒメだけを娶った。父は大きく嘆息して言った。「イワナガと二人を娶れば、永遠の命を得られたであろうに、これで天津神の御子の寿命ははかないものとなる。」
もう一つ物語がある。ニニギノミコトとの間に受胎したコノハナノサクヤヒメをミコトは疑いを持った。「お腹の子は本当に私の子か」とサクヤヒメに聞いた。侮辱に感じたヒメは「天津神の子はどんなところでも安泰に生まれましょう」と言って、産屋に火を放った。火の中で三人の子が元気に生まれた。御子の名にはいずれも火が入っている。つまり火照命(ホデリノミコト)、火須勢理命(ホスセリリノミコト)、火遠理命(ホオリノミコト)である。ホデリが海幸彦、ホオリが山幸彦で、兄から借りた釣り針を失くし、海の中の竜宮に行き豊玉姫と結婚する話へと進んでいく。かつて、神話に親しんできた日本の人々には、コノハナノサクヤヒメや桜の花は忘れられぬものであった。
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