徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:岡本裕一朗著、『哲学と人類 ソクラテスからカント、21世紀の思想家まで』(文春e-book)

2022年10月12日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

タイトルからものすごく壮大な歴史的俯瞰的な考察を想像しますが、そこまで網羅的なものではなく、「技術」「メディア」という観点から見た人類の発展略史のような感じでした。

中心となるのは3つの技術革新とそれに影響を受けた思想の発展です。
一つ目は文字の発明。ここではギリシャ哲学者のソクラテスの「書き言葉」に対する否定的な見方と、それでもなお「対話」としてソクラテスの教えを書き留めたプラトンについて考察されます。
しかし書き留めて書物にするトレンドは変わらず、ついに「聖書」がベストセラーに。キリスト教の広がりは「書物」というメディアなしにはあり得なかったという考察。

二つ目は印刷技術の発明。手作業で書き写していた書籍がグーテンベルクの印刷技術によってある程度大衆化したこと。ここでの「大衆化」はラテン語・ギリシャ語ではなくドイツ語やフランス語などの現地語で書かれることと、ナショナリズム・国民国家の概念の誕生に結びついているという考察。

三つ目は、視覚情報を視覚情報のままに、音声を音声のままに保存・再生できる写真技術や畜音技術の発展、映画というメディアの登場。これらの技術革新と、それぞれ異なる種類の「無意識」がマルクス・ニーチェ・フロイトによって発見されたことが無関係ではないという考察。

そして、現在進行中のメディア革新は管理者を持たない分散型で、少数が他者を監視することと、多数が少数(の有名人など)を見ることの双方向性が成り立っている特異な環境と言え、今後、AIの発展に従って人類の終焉に向かっているのかもしれないと考察します。

目次
第1章 「21世紀の資本主義」の哲学
     ――メディアの終わりと世界の行方
第2章 「人類史」を世界の哲学者たちが問う理由
     ――ホモ・サピエンスはなぜ終わるのか?
第3章 私たちはどこから来たのか
     ――「ホモ・サピエンス」のはじまり
第4章 ギリシア哲学と「最大の謎」
     ――「文字」の誕生
第5章 キリスト教はなぜ世界最大宗教になったのか
     ――中世メディア革命と「書物」
第6章 「国民国家」はいかに生まれたか
     ――活版印刷術と哲学の大転回
第7章 「無意識」の発見と近代の終わり
     ――マルクス、ニーチェ、フロイト
第8章 20世紀、メディアが「大衆社会」を生んだ
     ――マスメディアの哲学

 メディアの哲学、または技術の哲学という切り口が興味深く、新鮮でした。