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書評:今野敏著、『警視庁捜査一課・碓氷弘一』シリーズ全6巻(中公文庫)

2022年10月15日 | 書評ー小説:作者カ行

警視庁捜査一課の中年刑事・碓氷弘一を主人公とする本シリーズは、最初からシリーズとしてコンセプトが練られたわけではなさそうな印象を受けました。
というのは、6冊全部一気に2日半かけて読んだせいで、作風や構成の違いを強く感じたからかもしれません。

『触発』と『アキハバラ』は構成が明らかに似ています。両作品とも犯人を含めた関係者の視点で語られる断片的なエピソードがパズルのように折り重なっていく手法です。それぞれ無関係に思われる人物たちがそれぞれの考え、行動していき、そうした話の糸が何本も絡み合ってやがて一つの大きな事件・事案(爆発テロと秋葉原のとある大きなショップでの爆弾予告と立てこもり事件)に収斂していきます。
このため、碓氷弘一は登場人物の1人に過ぎず、「主人公」というほどの比重がありません。事件解決にかなり決定的な役割を果たしていることは確かなのですが、そうかといって、他のストーリーストリングで語り手または視点を担っている人物たちの比重もかなり大きいのです。
この2作の特徴は、視点が固定されていないことですね。
これはこれで、パズルピースを少しずつ嵌めて行くような楽しみがあります。


第1巻『触発』

第2巻『アキハバラ』



第3巻の『パラレル』では、先行2作ほど視点が分散しておらず、『パラレル』のタイトルに相応しく、碓氷弘一側と『鬼龍』シリーズの白黒コンビ祈祷師+富田刑事側の2本立てでストーリーが進行します。途中から両方のストリングが合流して一気に事件の確信に迫るパターンは他の作品にもあったかな、という感じです。
非行少年たちが次々と見事な手際で殺されていく連続殺人事件で、鬼龍が登場する以上、犯人たちは「亡者」にされてしまっており、「親亡者」を探すことになるのが大筋パターンとなります。
そこに碓氷・高木コンビの武闘家の線からのアプローチが絡んでいきます。


第4巻『エチュード』から他の警察小説シリーズのように碓氷弘一に視点が固定されて物語が進行します。
渋谷の交差点、交番のすぐ近くで通り魔事件が起こり、善意の協力者によって現行犯逮捕されることから物語は始まります。それだけであれば、捜査一課が扱うような事案にはならないのですが、その二日後に新宿でそっくりな事件が起こり、碓氷はたまたま日曜日で家族サービスに勤めているときに現場のすぐ近くに居合わせたので臨場し、いわば「端緒」に触れたのでそのまま事件担当になる流れです。新宿でもやはり善意の協力者による現行犯逮捕だったのですが、どちらの場合もその協力者は姿を消してしまっており、逮捕に当たった警官が全員その協力者の人着を覚えておらず、思い出そうとすると逮捕した被疑者のことが思い浮かんでしまうという。
そこで心理調査官・藤森紗英が新たに登場し、碓氷とコンビを組み、この奇妙な共通性の謎を解きます。



第5巻『ペトロ』では考古学教授の妻兼教え子で教員していた女性が自宅で殺された事件から始まります。現場には謎めいた日本のペトログリフ・桃木文字が壁に残されていました。
さらに数日後、同教授の弟子が発掘現場で扼殺されてしまい、その現場にもヒッタイトのペトログリフ・楔形文字が残されていました。
これを受けて碓氷はこの両文字の調査の特命を受け、歴史学・言語学・象徴学研究者のアルトマン教授を相棒に連続殺人の真相を追うことになります。
これらのペトログリフは何を意味し、何の目的で誰が残したのか。
考古学的なシンボルが使用されるところは、ダン・ブラウンの「ダビンチコード」や「ロストシンボル」を連想させますが、学術的考証の深さはダン・ブラウンほどありません。
それでも十分に興味深いミステリーで楽しめます。


第6巻『マインド』では、タイトルですでに暗示されているようにマインドコントロールがカギです。
ある日の夜11時頃に一人の警官と一人の中学生が自殺を図ったというニュースを聞いた碓氷がそんな「偶然」があるのだろうかと疑問に思うのですが、さらに時間が経って、同じ日ほぼ同じ時間に2件の殺人があったことが判明します。そこで捜査一課の田端課長が不審に思い、それら4件の事件に何らかの関係性があるのかどうか、ただの偶然なのか調査するための特命班が作られます。
殺人犯の二人は程なく逮捕され、どちらも自分のしたことの記憶がないと供述したため、心理調査官・藤森紗英の再登場となります。
これが鬼龍シリーズでしたら、「親亡者はどこか?」になりますが、このシリーズでは、どこでどのようにマインドコントロールのようなものを受けたかが焦点となります。
私は最初、ネット経由のゲームか何かを介在して暗示のようなものを受けたのではないかと想像していたのですが、意外とオーソドックスな手段でした。



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