人間の体には、体温を危険レベルまで上昇させないよう、熱を放出する仕組みが主に二つ備わっている。
◉一つは、血管が広がり、 皮膚に熱が送られて放出されるというもの。
◉他の一つは、 大量に発汗し汗が蒸発したときの気化熱で皮膚を冷やす。
こうした仕組みがうまく働かなくなると人は死に至る。
熱中症で体温が上がると、拡張した血管にたっぷり血液を送るために心臓と肺はフル稼働する。心臓の働きが追いつかなくなると、血圧が急低下し、めまいがしたり、よろけたり、ろれつが回らなくなる。 大量の発汗で塩分が失われるため、 筋肉のけいれんも起きる。多くの患者は意識が混濁して、すぐにも助けが必要な重大な状況であることに気づかない。
大量の血液が皮膚に送られると、職器に流れ込む血液が減る。すると血流の低下が引き起こす一連の反応で、多くの臓器の細胞が破壊される。
丈夫な人は深部体温が42℃まで上がっても何時間かは耐えられるが、乳幼児と高齢者は概して熱に弱い。健康であっても、高齢になると熱中症のリスクは高まる。
高齢者が弱い理由の一つは、加齢に伴って汗腺が小さくなり、汗が出にくくなること。 また、 喉の渇きを感じ難いため、十分に水分を摂取しない場合も多い。 そうなると体は残ったわずかな水分を失わないよう発汗を止め、逆に寒気がして震えることもある。
この時点で心臓発作を起こすこともあるが、より健康な人も視野狭窄や幻覚に襲われる。また、神経が過敏になって、衣服が肌に触れただけでもひりひり痛み、 着ているものを次々に脱ぎ捨てる。血圧が低下するにつれて、意識を失うこともある。
ここまで来ると心筋も含め、 筋肉組織が正常に機能しなくなる。
防御反応が低下した消化管から毒素が血流に入り始め、血管の中で血液が固まり始める。その結果、脳や心臓、腎臓、腎臓などの重要臓器が機能障害に陥り、やがて死を迎えることになる。
このように、熱中症は単に脱水症の範疇にとどまらない複雑な病態を持つ。特に厳しい多臓器不全の状態に進行しうる危険な状態なのだ。
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