福田の雑記帖

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本 蓮池 薫著 「拉致と決断」 新潮文庫 平成27年(2015) (2)

2020年11月26日 16時02分21秒 | 書評
 本書には見るべき項目記述はたくさんある。
 それらについて広く言及することはできないが、特に洗脳教育、食糧難に関する部分の記述は目を離せなかった。

 それは国連決議で物資が入手し難くなっている今でも続いていると考えられる。
 3年ほど前、日本海に木造船が、時には死体を乗せたまま100槽近くも漂着したが、厳寒の中あのような粗末な船で食糧を求めて海に出なければならなかった背景が理解できたような気がする。飽食、食料廃棄の我が国とは次元が違う状態としか言いようがない。
 
 この本の価値の一つは、北朝鮮の人たちの生活の細かな描写である。
 上層部に対して対面を保つことだけに腐心する役人、統制社会の中で生きるために闇市で商売をする農民たち。抗日戦争の英雄視、対米戦争の危機感の煽り、スポーツ振興による高揚感など、あらゆる手段で国民に忠誠心を植え付ける国家像が描かれる。
 国民はそれらをどう受け止めているのか。それについても圧倒的な現実感をもって語られている。

 一方で、この本では敢えて書かなかった、と思わざるを得ない項目も多々ある。まだ北朝鮮に拉致されたままの仲間とその家族への配慮のための自制と考えられる。

 氏は招待所でどのような生活をしていたのか、北朝鮮首脳部とどのような関わりがあったのか、横田めぐみさんと会ったのか、という肝心な点については記載がない。

 氏の記述はあくまでもソフトで表現は冷静である。日本政府に対しても、北朝鮮に対しても不満はあるだろう。抑制の効いた文章から、氏の人となりと、拉致問題の一刻も早い解決への強い配慮が伝わった。

 帰国後、氏は新潟の大学で教鞭を取る傍ら、日本各地で講演を行い、自身の拉致や帰国後のできごとを語っている。

 氏の著作として他にも以下がある。機会があれば読んでみたい。
 ■「蓮池流韓国語入門」文春新書、2008年
 ■『私が見た「韓国歴史ドラマ」の舞台と今』講談社、2009 
 ■『半島へ、ふたたび』新潮社 2009年
 ■『夢うばわれても 拉致と人生』PHP研究所 2011

 氏の兄はかつては「拉致家族の会」の事務局長であった。立場の違いから来たのであろう、帰国時から何かと両氏間には確執があった。それについて蓮池透著「奪還」に詳しい。
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