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福田の雑記帖

www.mfukuda.com 徒然日記の抜粋です。

絵画を楽しむ(4) 本 深井晃子著:ファッションから名画を読む PHP新書 2009年

2021年05月28日 07時32分35秒 | 書評
 私は服装について関心も知識も乏しい。ただ、人間の歴史、文明の発達などと衣服は濃厚に関連しており無視できない文化の一つとしての関心はある。
馬子にも衣装とは(1)最近、ファッションに興味を感じている
馬子にも衣装とは(2)そもそも人は何で衣服をまとうのか

 絵画を味わう場合、特に近・近代の作品においては服飾は時代の政治、経済、権力財力の過剰な集中、庶民からの搾取問題を無視できない。
 そういった意味で興味がある。

 上記書籍は絵画における服装の描写から歴史・文化の推移を論じており、いろいろ勉強になった。

 筆者は、パリの大学院で美術史を学び、京都国立博物館等でファッション関係の企画展示の企画に携わったキュレーターの方。京都服食文化財団の理事。

 画家が描いた美しいファッション、画家の情熱にモデルの誇り、絹の光沢にビロードの艶、贅をこらした装飾、流行のシルエット、鮮やかな色彩、衣擦れの音さえ聞こえてきそうな布の質感すらも表現されており、時代の輝きと、そこに生きた人々の息づかいを感じ取れる。

 有名な絵画も、「装い」に目を向けて改めて見直せばれば、隠された魅力が見えてくる。

 フェルメール、ダ・ヴィンチ、ルノワールetc. 画家たちの筆がとらえた折々の服装は、時代を超えて、衣服は多くを語っている。

 ヌード画は別であるが、いやこれですら脱ぎ捨てた衣服などは重要な鑑賞対象になる。人物画を好む人にとってとてもよい指南書になっている。

 ファッションの絵画史はそのままファッションの歴史でもある。時代とともにどう変わったのか、なぜ変わる必要があったのか。
 昨今、美術史や絵画を解説した本は多いが、ファッションから名画を分析するというのはとても珍しいように思う。



 当初私は美術館には赴き、掲げられている肖像画の表情には注目することはあっても、ファッションについては知識がないこともあり関心を持って見ていなかった。私が絵画を見る視点は大きく変わった。

 なお、文中に引用された絵画は数多いが、新書版ということもあって小さく、じっくり見るには耐え難い。同じ絵画を別の大型の画集を参照しながら読むと一層楽しめる。
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書評 さだまさし作「解夏」 幻冬舎文庫 2003年

2021年05月12日 09時36分33秒 | 書評
 主人公は失明が必至の病、ベーチェット病に侵され、絶望の怒りと恐怖に向かい合うという「業」を背負っている。恋人と母と友人達の絶対的な愛に支えられ、運命を受け入れ、解放される日々を過ごす。
 物語の内容は映画評「解夏」にも記載した。

 数々の名曲を生み出したのみならず、筆者の文章はとても美しい。淡々としているのに読むものの心を震わせる。

 表題作のほか5編の短編が収められている。いずれの物語も素晴らしい内容である。
 
 (文庫本の表紙)

 余談(1)
 書評ではないが、私は旅行嫌いで、観光にも土地の味覚にもそれほど興味がない。特に九州は馴染みが乏しい。その中でも長崎については関心が大きい方である。

 亡母の話によると幼少の頃に一度何かの用事で長崎を訪れたことがあるらしい。
 その後、内科や血液学会を通じて30年ほど前に2回長崎市を訪れた。学会のことなど記憶は皆無だが、長崎市に関しては、平地が少なく坂道だらけの地形、夜景の素晴らしさ、歴史的な街として長崎出島、グラバー邸などが記憶に残っている。
 長崎チャンポン?はあまり美味とは言えなかった。
 中でも2回訪れた平和公園、原爆資料館は衝撃的で、広島のそれとともに機会があれば何度でも訪れたいところである。

 最初の訪問時には航空機が海面すれすれまで降下して長崎空港に着陸した。長崎空港は大村湾の中央付近、海岸から約2kmに浮かぶ世界初の海上空港として開業したが、その情報を得ていなかったためにこのまま海上に不時着するのかとさえ思った。

 長崎については10年ほど前だったか、吉村昭氏の戦艦「武蔵」建造に関わる著作を読んだことが機会となって、長崎について認識を新たにした。

 余談(2)
 内容的には映画で取り上げた病気とは全く違うが、私も進行性の視力障害の最中にある。視力検査の字や記号は全く見えない。両眼とも0.01以下と判定される。
 私の場合は白内障、緑内障などが原因なので治療しようと思えばできないわけではないが、私はあえて治療せずに放置し、徐々に進む軽度の視力障害の世界を楽しんでいる。焦点がずれていてはっきりは見えないが、だからこそ景色は美しく、夜景は綺麗、かつ女性は美しく見え、ネコは可愛い。見え過ぎるよりは総じていい感じである。

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食2021 (8) バナナ(4) 書評 本;黒木夏美著 「バナナの皮はなぜすべるのか」水声社 2010

2021年04月22日 03時12分23秒 | 書評
 黒木夏美氏は1984年生まれの女性、九州大学文学部卒。図書館勤務歴あり。現在はファッションモデルとして活躍。

 鬱々とした心で散歩していた著者の前にバナナの皮が落ちていた。それを見た瞬間「バナナの皮で人が滑って転ぶギャグ」を連想した。そのことでテンションが上がった著者は素朴な疑問を抱く。最もポピュラーなギャグである「バナナの皮ですべって転倒」は、いつ、どこで、誰によって、どうやって生みだされたのか?という疑問であった。

 この素朴な疑問を解決すべく、著者はネットを駆使し内外の映画、文学作品、テレビ番組、マンガ、短歌俳句に至るまでバナナが関連したギャクなどを広範に集めた。さらに、実際に転んで怪我をした記録や事件を調べあげ、その社会的背景までを調べつくし、300ページの作品にまとめた。


 幅広い年代の、多数の資料にあたり、バナナの扱われ方の変化や各時代のバナナ事情を読み解く。
 さらに、そもそもの「笑いとは何か」のギャク論や「バナナ産業」、「植民地問題」、「労働者の被搾取問題」、「捨てられるからこそ転ぶのだというモラル論」にも視野は伸び話題は次々と広がる。

 疑問を追いかけていくたびに得られた収穫が増える一方、疑問も増殖に増殖を重ねる。その一つ一つが読む者の想像力を刺激するし、読んだ後には豊穣なバナナの果実を味わい尽くした満足感も生まれてくる。
 内容的には引用文献も豊富に挙げられ、さらに人名索引などもあり、書籍としての構築がしっかりしていて安心して読める。

 この本はネットがなければ生まれなかった本と言える。さらに著者の図書館勤務歴も重要である。ネットに散財する単なる情報を吟味し、書籍にある資料と組み合わせて一貫性のある本にまとめ上げた。

 ちょっとしたこんなことでも情報収集を駆使し、体系化するもできるという可能性を教えてくれた貴重な本である。大いに参考になった。しかし、この著者の作品はこの一冊だけなようである。その資質が勿体無い。

 マンガなどでよくみかける捨てられたバナナの皮は、実のしっぽのほうからむいたように硬い軸を中心に放射状に広がっている。果物を頭のほうからむいて食べるとあの形にはならないことなど、も指摘されている。こういう小さな物事を気にかけて徹底的に追求してみる著者の態度に頭が下がる。

 その他、バナナに関しては、以下の文献も参照した。私のバナナ好きがこんな文献を集めていた。
 ■鶴見良行著 「バナナと日本人 フィリッピン農園と食卓の間」 岩波新書
 ■ダン・コッペル著 「バナナの世界史 歴史を変えた果物の数奇な運命」 太田出版
 ■獅子文六著 バナナ ちくま文庫
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書評 北原みのり著 「毒婦」 朝日新聞文庫 2012年 首都圏連続不審死事件(2)

2021年02月11日 02時39分20秒 | 書評
 首都圏連続不審死事件の木嶋被告とは、どんな人物なのか。
 決して美人とはいえない容姿ながら、性的機能に優れた肉体と結婚をちらつかせ13人もの男を手玉に取れた理由とは何か。男たちはこんな女になぜだまされ、1億円以上もだまし取られたのか。

 3人の男性を練炭で殺害したとして死刑判決を受けた木嶋被告。
 彼女に対しては誰しもが大なり小なり興味を持つだろう。



 裁判は100日に及んだ。この本は「木嶋佳苗100日裁判傍聴記」との副題を持つ。貴重な裁判記録になっている。
 彼女の出廷時のファッションまでもが話題となり、自身の優れた性機能にについて赤裸々に語った。
 本書は裁判の傍聴に加え、故郷・北海道別海町や事件関係者への徹底した取材を通して木嶋被告の内面に迫郎とした渾身の一冊と言える。

 著者は「木嶋被告のことを考えていると、色んな風に考えが広がる。女と男のことを考える。女目線、男目線の違いを考える。私たち女は、男に何を求めているのか。なぜ、一般の男たちは佳苗に苛立つのか。ある種の女たちは佳苗に惹かれ、ある種の女たちは、佳苗を憎むのか・・・・」。女である著者の感想である。木嶋に同情的な記載や、被害者男性を冷笑するような女目線の記載もある。

 木嶋被告は自分の“デブ・ブス”を認め、それに抗うことはなかった。彼女には見てくれ以上の身体的な能力が自分に備わっていることを自覚してそれを十分に利用した。一方、“ブス女”とあざける男たち。一般的に考えると誰でもそんな感想を持つだろうが、木嶋は、そんな男たちを嘲笑う。
 
 著者は彼女の生い立ちや人間関係を調査することによって、心の闇を探ろうと必死になっている。しかしながら、最終的には木嶋個人に問題があるという論調になっていく。

 木嶋は実はどこにでもいるありふれた女性の一人だったかもしれない。普通の人々が抑え込んでる欲望を多くもち、その欲望をなんの悪びれもなく堂々と解き放つ行動力は何からきているのか。普通の人が生きてる社会の価値観の枠で理解しようとするのは難しい。

 この事件に、ネット社会が果たしている役割は大きいと思う。木嶋は、何故無防備にネットで交信し、その記録を残したのか。木嶋は被害者に送ったメールで、最初からお金の要求をし、肉体関係の話題をチラつかせている。メールの効果は大きかったのではないか。加えて、練炭を残してあるのも不思議。誰が見ても同じ犯人像が浮かんで来るはず。
 救いと言えば、殺害された三人の方々は睡眠薬と一酸化炭素の中で死の恐怖など全く感じることなく、幸せ感を味わいつつ絶命したのではないか。数多くの殺人事件は被害者に苦痛や恐怖を強いることが多いのに、彼女は直接手を下さない巧妙な方法とった。それだけ罪悪感は乏しいのだろう。最高裁まで無罪を主張した。

 彼女は死刑が確定し、獄中で過ごしている。獄中で手記・自伝小説「礼讃」もまとめ上げた。
 確かに並みではない人間であるが、木嶋の人間像を怪物にしてしまったのはメディアの興味本位の、大衆への迎合報道のなせる技だった、と思う。
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私の食事観(15) 箸の文化 箸の使い方について(4) (参考文献)斎藤たま著:「箸の文明史」 論創社 (2010)

2020年12月06日 10時10分40秒 | 書評
(参考文献) 斎藤たま著「箸の文明史」 論創社 (2010)
 私が箸の使い方に過剰に興味を持っているのは、単に日本的な食事の作法からだけではなく、かつて、箸の歴史を本で読み感心したことも関係している。

 「箸の文明史」という書籍がある。
 これををまとめた斎藤たま氏は、1936年山形県生まれ。県立東高校定時制を卒業後、東京渋谷の書店に勤務していたが1971年退職、以降、子どもの遊びの歴史などの収集に入る。全国各地を訪れて、子どもの伝承遊びや、出産・葬礼・年中行事などに関わる民俗風習についての聞き取り調査を続けてきた。
 その記録は主として論創社から随筆や絵本として出版されている。山村・漁村・離島など、昔の生活スタイルが色濃く残る地域に暮す高齢者の話や唄の数々は、今では採録することができない 貴重なものとなっている。

 氏の主な作品に、「■「便所の民俗誌」 (2011)、 ■「わらの民俗誌」 (2011) 、■「賽銭の民俗誌」 (2010) 、■「箸の民俗誌」 (2010)、 ■「まよけの民俗誌」 (2010) 、■「落し紙以前」 (2005) 、■「おしりをふく話」(たくさんのふしぎ 162) (1998) 絵:なかのひろたか 福音館書店・・・など多数。

 著者は約40年間にわたって古い暮らしをたずねて歩き民俗史を紡ぎ続けてきた。その著者は「箸はどうやら食品を口にに運ぶだけの道具ではなかった」、と気づく。箸は日常的な食事の道具だけでなく、ある指命、期待を帯びていたことに気づく。
 箸の任務・期待は何かというと、厄難よけ、ということになるのだが、全国的に、■箸にまつわる習わしの何と多岐にわたることか、■箸の材料となる各種の樹木は病の時には皆が頼む薬となり、■さらには魔ものから心身を守ってくれるお守りにも姿を変え、■信仰面での人とのかかわりがきわめて深いもの、だった・・・と記載されている。 

 いのちの儚さは今も昔も基本的には変わりはない。
 ほんの1世紀前のまでの民衆の暮らしは、現代の私たちには思い及ぱぬほどのいのちの脅威にさらされていた。私たちが現在迷信としてしかみなしていないものは、当時の民衆が、自らの、家族たちの身といのちを守る必死の願いと攻防だつたのだ。 
 かつては、出産はいのちがけであった。生まれてきた子どもの命もまた危ういものだった。病、けが、飢えに打ち勝って暮らすことは今よりもずつと困難で切実なことだつたのだ。

 その切実さから生まれる箸への数々の期待を探ることは、著者にとって人心の願いと知恵とを知る貴重な仕事であった。

 私は数多くの迷信や風習を直接知る最後の世代、だと思う。その面から見て氏の著作は私にとってどれも興味深いものがある。機会あれば読みたいものだ。
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