4) 志野釉に付いて。
① 素焼きは、800度程度の温度で焼成します。
尚、艾(もぐさ)土を単味で使用する場合は、「素焼き切れ」を防ぐ為に、360~370℃程度で
素焼きを行うとの事です。
(420~430℃程度で盛んに水分が蒸発し、急乾燥とその衝撃により肌理の粗い艾土は、
耐えられずに、素焼き切れを起こすそうです。)
) 鼠志野や赤志野などの場合の化粧土は、素焼きの前に行う方が安全で確実です。
) 絵志乃の場合には、素焼き後に絵付けを行います。
一般的な絵柄では、竹の子、竹、とくさ、蕨(わらび)、すすき(芒)などの植物や、山、月、鳥、
雁(がん)などの自然界なもの、更には抽象的な丸や三角、四角、井桁文様などが多い様で、
濃い目の弁柄(ベンガラ)などの、鉄分の多い絵の具を筆で描き、絵が乾いたら長石釉を
掛けます。
② 志野釉には不明な点(技術が公開されていない秘密の部分)が多いです。
) 志野釉は長石釉で長石を単味で使用すると文献等に記載されていますが、カリ長石
(正長石)の融点は、1533℃、ソーダー長石は1528℃、灰長石では1553℃程度とされて
います。実際には、不純物が含まれていますので、上記の温度よりも低くなりますが、
1300℃以上は、必要ではないかと言われています。但し軟化点は1250℃前後です。
) 長時間焼くとは言いながらも、焼成温度は1250℃程度の様ですので、長石を単味で使用
しても、十分熔けないはずです。更に釉は他の焼き物より、厚く掛けてありますので、熔け
不足が生じそうですが、見事に焼き上げている作家も多いです。そこには何らかの秘密が
隠されているはずです。当然その秘密は公開される事はありません。
(各作家達が、長年の試行錯誤によって、手に入れた調合方法です。)
) 美濃の林正太郎氏は、現在を代表する志野の第一人者ですが、彼はインドのカリ長石を
使用しているとの事です。耐火度が割合低く透明性があり、絵志野向きとの事です。
カリ長石は粘りが少なく、これを補う為、数%のカオリンを混ぜています。更に、粘土質の物を
入れると、緋色が出易いとも述べています。
もう一つは、風化長石を使い、乳濁したマット調の柔らかい焼き上がりに成ります。
耐火度は高くなります。尚、彼は八種類の長石を組み合わせているとの事です。
) 原材料の長石は、槌(つち)で良く衝いて細かく粉砕した状態で使用します。
長石を選ぶポイントは、鉄分が少ない事、粉砕し易い事、及び水の中で余り沈殿しない事
で、良く熔けて透明性があり、貫入が入れば上等の長石です。
・ わが国には、著名な長石の他に、多様な長石や石粉(いしこ)と呼ばれる半分解物
(風化物)が、各地の窯場所に存在しています。
例として、三河石粉、波佐見石、尾張白川石、サバ土、釜戸石粉、千倉石、肥前網代土
などが上げられます。
5) 施釉に付いて
原則、生掛けはせずに素焼き後に施釉します。生掛けですと、一時間後には釉が素地から剥がれ
落ちます。(釉の濃度も大きく関係します。)
① 志野茶碗の施釉しない場所は、高台際と高台及び、高台内です。この部分は素地がそのまま
露出します。これを「土見せ」と言います。高台際も整った円形ではなく、不定形に施釉します
② 志野茶碗の高台は、低いものが多く、施釉する際に高台が持てません。
その為、五本の指で腰の部分を鷲掴み(わそずかみ)して、施釉する事になります。
) 志野釉は極端に流動性の無い釉ですので、釉を掛けた状態で焼き上がります。
即ち、施釉時の指跡がしっかり残ります。補修を試みても指跡を完全に消す事は困難です。
もっとも、この指跡が、志野茶碗の見所の一つで指跡部を正面にしている作品も多いです。
(作品集などの写真をみると、指跡が正面に写っている作品が多くあります。)
) 凹凸のある状態で施釉が終わると、そのまんまの形を維持します。
その為、二重掛けで施釉すると、釉の濃淡がしっかり出ます。
③ 施釉の仕方。
) 濃度を調整する。作品に応じて濃淡二種類の濃度を重ね掛けする事も有ります。
) 茶碗の内側に釉を流し込み、一定の時間(数秒)後に釉を捨てます。
茶碗をしっかり持ち、外側を柄杓で流し掛けします。その際、高台周辺は塗り残します。
・ 他の方法として、外側を漬け掛けする方法があります。流し掛けより時間の調整が容易で
釉を厚く掛ける事が出来ます。又、薄目の釉を掛けた後、部分的に濃目の釉を流し掛ける
事により、より変化のある釉掛けが出来ます。
) 釉掛けが終わった作品には、クレエーターの様な穴が開く場合があります。
これは、胎土に含まれる空気が、釉の水分によって押し出され、釉の表面から抜け出した
跡です。高い温度で焼成しても、流動性の無い志野釉では、そのまま現れ残します。
尚、他の焼き物の場合には、指などで気泡跡を潰します。
6) 志野の焼成に付いて。
以下次回に続きます。