ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

上原ひろみとマーキュリー

2010年08月21日 | 友達とわたし
Hiromi Uehara - I've got Rhythm


というわけで、今日はひろみちゃんの演奏を聞きに、師匠と旦那、そしてわたしのいつもの3人で、マンハッタンは『ブルーノート』に向かった。
ネットで予約しようと思ったのだけど、どうしてもうまくいかなくて、まあ開演のだいぶ前に行きゃあなんとかなるかということで、師匠の娘さんからのお願いがあったチョコレートのお店も歩いて行ける距離にあったので、そこにも寄ってちょっと小腹も膨らませて行こかと、かなり余裕をもって出かけた、はずだった……。

車が動き出してすぐに、後ろ右側のタイヤから、また前のような変な音が聞こえてきた。
修理に出して調べてもらったけれど、どこにも異常は見当たらないと言われて戻ってきた車なのに……。
気持ちが悪いので、ガソリンスタンドに寄り、タイヤの空気圧を整えながら点検したが、やっぱりなにも異常は見つからなかった。
音が消え、ガソリンも足し、これでなんとか行けるだろうと高速に入る手前の橋の上から道路の様子を見てみると……めちゃ混み……あかんでこれは。
急いで作ったおにぎりはいったいなんだったんだろう……おやつにおかきだって持ち込んだのに……。

とりあえず道路脇に車を止め、車内会議に入る。
違うトンネルか橋を選ぶのだけど、この混み様はちょっとおかしい。10分おきに交通情報が流れるラジオ局を聞く。
再び……。
リンカーントンネル→40分の待ち、ホーランドトンネル→1時間半の待ち、ジョージ・ワシントン・ブリッジ→1時間半の待ち。こらあかん

こうなったら無理に待ちに行くこともない。家に戻って様子を見ながら、待ち時間が少なくなったら出発しようということにした。
お土産はまた明日。

「あ、リンカーントンネルは20分待ちになった!」
レッツゴー!
ところがところが……様子が変だ。トンネルまでを走る3号線がとんでもなく混んでいる。とってもイヤな予感……。
「よし、こないだ使った裏技を使ってみよう」と旦那。裏道が使えるホーランドトンネルに変更するらしい。
今は混んでいるけれど、トンネルに近づいた頃には待ち時間が短くなっていることに賭けることにした。

ところがところがところが……10分置きにラジオから流れてくる情報は、哀しいほどに変化無し。1時間半をくり返している。
おまけに、トンネルにあともう3キロ、という所に来て完全にストップしてしまった。
交差点の周辺には、うんざりとした顔で車の中に閉じ込められている人達に、水や花を売る人達まで現れた。その渋滞がハンパではない、という証拠。
ラジオから「ホーランドトンネル内で車が故障し動けなくなった車があって……」というニュースが聞こえてきた。
「リンカーンに戻ろう」
ホーランドとリンカーンの別れ道の所にやっと辿り着いた時、旦那は三たび行き先を変えた。もうその時で7時半。ひろみちゃんのショーは8時。
店で落ち合う予定になっていたA子に、8時までに着ける可能性はかなり少ないことを伝えると、「じゃあ、今夜はやっぱやめとくわ」と一抜けた。
わたし達もかなり気が抜けていたのだが、師匠の友人でたまたまマンハッタンに旅行で来ている女性がいて、彼女にも店で会おうということにしていたので、とにかく我々としては向かった方がいいし、ひろみちゃんのピアノもできることならもちろん聞きたい。

マンハッタンに入ってからも、ブルーノートのある辺りは迷路のようになっていて、そりゃもう場所が見つかりにくい。
それをなんとか旦那が頑張ってくれて、やっとこさ着いたのが8時20分。もうショーは始まっていて、チケットはソールドアウト。一巻の終わり。
待ち合わせした女性の姿は無く、多分もう中に入っているんだろうなあと思いながらも、ショーの途中では連絡のつけようもなく、けれどもせっかくここまで出てきたんだから、せめてウェストビレッジの街を楽しんでから帰ろうということになった。

外のテーブルで食べている人達のお皿の上を点検していると、かなり美味そうな料理が並んでいるレストランを見つけたので、テーブルが空くのを待った。
なんとな~くもう終わりそうな女性の二人連れが居て、店の中の人に尋ねると、「だめだめ!彼女達ね、もうかれこれ2時間以上はああやってダラダラと居座ってるの。きっとまだまだ動かないわよ」と断言されてしまった。
そう言われてじっくり観察してみると、なるほど全く席を立つ気配が無い。
それどころか、とうとうトランプのカードを鞄の中から取り出してきた?!思いっきりくつろいでいる。あんたら、そこは自分ちの部屋か?!
路上駐車した車の時間切れが近づいてきたので、料金を払い足しに行った旦那がいっこうに戻って来ない。
だいぶ経ってから「迷てる……まだ車のとこにさえ着いてない」と、かなり落ち込んだ声で電話がかかってきた。
今日はほんとにうまくいかない。

やっとこさ、二人連れの隣のテーブルが空き、よっこらせと師匠とわたしが座ってしばらくすると旦那が戻ってきた。
「マーキュリーのせいで今夜はオカシイ」
なんとなくそんなことも信じたくなるような夜。
ふと横を見ると、店の内側のガラス越しに、わたしのすぐ斜め向かいに座っているゲイカップルの男性の顔の美しいことったら!ついうっとりと見入ってしまう。
それに、待った甲斐があったと思わせてくれる料理の美味しさよ!
オカシイけれど、幸せなこともある。なかなかに多彩な一日。

お茶だけだったら、ということで、A子もまたやってきてくれて、4人で楽しくおしゃべりしながらワインを飲み、通りを歩き、ブルーノート近くの、とても古いけれども、美味しいカプチーノを飲ませてくれるカフェに行った。


ところで、今日は朝から師匠と一緒に、ファーマーズマーケットに行ってきた。
新鮮なキュウリと獅子唐を買い、キュウリは味噌につけて、獅子唐は油で軽く炒めて醤油をたらして食べようということに。
お手製のハチミツを売っている店を覗くと、ハチミツの横にミツバチの巣で作ったロウソクやハチミツ入りの石けんが売っていた。
それぞれ違う香りを選んでお土産用に師匠が買おうとすると、おじさん、「一個おまけしとくよ」とニコニコ。なんていい人なんだ!
わたしはその中から、コーヒーとバニラが成分に入っているのをいただいた。
お昼からは、カーネギーでA子と演奏する曲を4曲とも師匠に聞いてもらった。
目からウロコな忠告や注意をいっぱいいっぱい受け、やっぱりもっともっと人に聞いてもらわにゃいけん!と改めて思った。
もっと重心を落として、丹田を中心に歌ったり音を鳴らしたりする。
自然にストンと落ちる感じで音を鳴らす。または、スッと鍵盤上から指が離れる瞬間に音を鳴らす。
歌のフレーズの進むべき方向を見誤らない。長い息で歌う。
fやpはただの目安であって、それにふさわしい強弱はもっと自分で感じてつける。
歌い手がどんなふうに歌いたいか、それをきちんと聞く。あるいは感じ取る。
いろんな注意を受けたことが嬉しくて、A子にもきっともっと良くなるからね、と約束した。
するとA子、「先生がいらっしゃる間に聞いてもらおうか?」と言い出した。
げげっそれって明日しかないやん……

そんなこんなで、A子をアパートまで送って行き、家に戻ってきたらもう2時?!
師匠はマンハッタンの街中を走っている時からすでに爆睡。
夜遊びし過ぎてませんか?わたし達。

結局、ひろみちゃんのピアノは一音も聞けなかったのだけれど、またまた楽しい夜を過ごせた。
マーキュリーもそれはそれでまたいいじゃん。って……いったい旦那はなにを言いたかったのか、それが今一わかってないのだけど……。