リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

尊敬するオノ

2016-02-07 08:58:00 | オヤジの日記
「話し相手になってくれないか」と大学時代の友人からリクエストがあったので、神田のお得意先に寄ったついでに、錦糸町に行ってきた。

総武線錦糸町駅から歩いて20分程度の築40年近いアパート。
4畳の和室と小さなキッチン。
家賃は知らない。

友人は6年前、病に倒れ、長期療養を余儀なくされた。
働けなくなった彼と距離を置いた妻は、子ども2人を連れて家を出ていった。

そして、離婚。
子どもの親権は元奥さんが持った。
(複雑な事情があったらしいが、私にそれを聞く趣味はない)

50過ぎの男は、突然ひとりになった。

いま友人の病気は、それなりに回復したが、毎日働けるほどの体力はまだない。
主治医からは「週に3日程度なら働いてもいいですよ」と言われているらしい。

そこで、友人は家の近所の総菜屋さんで、週に3日、1日5時間ほど働かせてもらっていた。
しかし、それだけでは家賃と公共料金を払ったら終わってしまうので、足りない分は国から保護を得て生活していた。

その友人が言うのである。
「俺、清原を尊敬してたのになあ。残念だよ」

「清原」とは、おそらく元野球選手の清原和博氏のことだと思う。
清原氏が、最近、世間を騒がせているのは知っていた。

しかし、尊敬していた、という言い方に私は軽い違和感を覚えた。
友人は、運動はまったく苦手で、ソフトボールは体育の授業で経験したが、野球はしたことがないと言っていたはずだ。

これがたとえば、同じ野球をしている人や野球少年が「清原を尊敬する」というのならわかるが、野球未経験者の友人が「尊敬する」というのは、ただニュースに便乗しただけのように私には思えたのだ。

しかし、友人は真剣な顔で言うのだ。
「ほら、清原も離婚して、親権を奥さんに渡しただろ。俺と境遇が同じじゃないか!」

清原氏のプライベートなことを私は知らない。
たとえインターネットで清原氏のプライベートが暴露されていたとしても、それが伝聞だらけだったら、私はおそらく信じないだろう。
だから、そのことに関して、私は答えようがない。

ほーーー、と言うしかない。

ただ、これだけは間違いなく言えることがある。


俺は、清原よりもおまえのことを尊敬するけどな。


昨年の7月26日。
その夏、東京で初めて猛暑日になった日だった。

友人から、今回と同じように「話し相手になって」という電話が来た。
行ってみると、覚悟はしていたが、エアコンのない4畳の和室はサウナ状態だった。

室温は、おそらく体温よりも高かったと思う。
小さな扇風機は回っていたが、少しも涼しくはない。
3分で耐えられなくなった私は、駅前のドトールで涼もうぜ、と提案した。

しかし、友人は「もったいない」と言うのである。

いや、金は俺が出すから、と提案したが、「俺が入院したときに、おまえからたくさんの見舞金をもらった。あれをまだ返していないのに、奢ってもらうことはできない」と拒否したのだ。

見舞金なんて返すもんじゃないだろう、と私が言うと、「いや、俺はいつか返すつもりだ」と友人が毅然として言った。

結局、推定室温37度の中で、1時間以上、ぬるい水道水を飲みながら友人の話し相手になった。
彼の部屋には「贅沢品の」冷蔵庫がなかったから、冷たいものが飲めなかったのである。
「貰いもの」だという湯を沸かす道具はあったが、温かいものを飲む気にはならなかった。

友人の今の生きがいは、仕事以外の日に、図書館に行って本を読むことだ(図書館が空調がきいて快適ということもある)。
それは、6年前に彼が入院していた病院に、小児病棟があったことと関係していた。
その図書館で、彼は週に2回ボランティアで子どもたちに読み聞かせをするための下準備をするのである。

彼は教員免許も持っていたので、子どもたちにせがまれたら勉強を教えることもあった。

それが、彼の生きがい。

その小児病棟に、シノブちゃんという5歳の女の子がいた。
その子に、去年の7月、友人が「パパって呼んでもいい?」と言われたというのだ。

それを言いたくて、友人は私を呼び出したようだ。
それを言ったあとで、友人は泣き崩れた。

よほど嬉しかったのだと思う。

友人の目から涙が飛び散った。
その姿を見た私は、37度近いサウナ状態の部屋で、目から汗を流した。

それで、今もシノブちゃんは、おまえのことを「パパ」って呼んでいるのかい、と私が聞くと、友人はまた泣き崩れながら「俺が病室に入っていくと『パパ』って笑顔で叫ぶんだよ。それが嬉しくて・・・・・・」と、言葉が泣き声に飲み込まれた。

暖房器具は小さな電気ストーブしかないから、部屋の中はかなり寒い。
目から汗が出るはずがないのに、私の目からは半年前と同じように汗が出た。

体が弱いのに、最低限の冷暖房しかない部屋に住み続ける友人。
こんな環境で病気がよくなるわけがない。

何とかならないのか、と私が聞くと、「このアパートはボロいから壁がエアコンの重みに耐えられないらしいんだな、それに、夏は暑いのが当たり前。冬は寒いのが当たり前だろ? それが日本の四季なんだから、文句を言ってもしょうがない。人間が環境に慣れればいいだけのことだ」と親友は負け惜しみに見えない笑顔で答えた。


国の保護を受けている、と聞くと事情を知りもせずに、感情的に批判する人がインターネットの世界には大勢いる。

そのすべての人を私は軽蔑する。



そして、どんな状況でも気高い生き方を失わない「友人オノ」を私は尊敬している。



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