まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

契約書の限界

2015-10-13 23:19:44 | 商事法務
○ 今回は、契約書の限界について書いてみましょう。具体的には、①関係者は契約書をまともに読まない。②契約を詳細に規定しても、重箱の隅の規定が多すぎて、ポイントがわからない。特に、英文の買収契約などは、50-100pagesも記載しても意味ある条項は、せいぜい1/5ぐらい。③契約書を、実務に落とすには、現場の人がわかる手順書等を記載しないと、地に足のついた契約の実行に繋がらない。契約書にきちんと記載すれば、それがスムーズに実行されると考えているお目出たい人も結構いますね。④契約書の内容は忘れてしまう。-ぐらいでしょうか。

 関係者は契約書をまともに読まない:例えば合弁契約書で、取締役会や株主総会で、法定の決議要件を超える条件を入れるときがあります。担当者なり責任者なりが、一度読んでも実際合弁会社に派遣される経営執行者は別の人だったりします。まじめな人なら読むかもしれませんが、一般的には、経営者はそんな余裕がありません。従い、重要事項を記載した契約書のサマリーを誰かが作成して、経営者はそれを読めば、合弁会社を運用できるようにしないといけません。
・英国法系の会社法ではSecretaryという、有資格者の機関を置くことが一般的ですから、Secretaryが、きちんと読んで会社法等所定の事項(Registrar of companiesへの届出事項)を行います。
・合弁契約などの重要契約を、きちんと読んで、その通り実行・推進する経営者を補佐する人が必要です。取締役会の開催(3月に1回以上とか、国によっては、まだ現実に開催する必要がある等) 等も、経営者にremindしてやらせることが必要ですね。

② 契約を詳細に規定しても、重箱の隅の規定が多すぎて、ポイントがわからない。:米国の買収契約、特にAsset Transferの契約では、日本と異なり譲渡しない資産・負債を詳細に規定します。日本の場合は、譲渡する資産・負債を簡単に記載します。真水の部分はのれんの分ですから、それ以外は行ってこいのぶんですね。
・ところが、最近は米国で勉強して帰国した若い弁護士さんは、米国の買収契約の和訳的な契約を作成します。逆の立場なら絶対受けられない条項を入れてきます。米国は騎馬民族ですから、相手を食べつくして餌がなくなったら、餌を求めて次に行きます。日本は、農耕民族ですから、自分の田んぼに水を引き込んでも、次の田んぼに水を行くようにしないといけません。農作業も助け合いです。これが、日本で1億3千万人が生きていく基本原理です。相手の立場を3-4割は考えて契約書をドラフトするのが当然と、私は思っていたのですが、そういう美風を忘れた弁護士が増えており、しかもなかなか譲歩もせず膨大な労力と交渉時間が必要な契約が増えているのは嘆かわしいですね。

③ 契約書を実務に落とすには、現場の人がわかる手順書等を記載:OEMとか製造委託とかの契約書で詳細を決めても、実際作業を行う人が契約書を読みますか?そんなことありえないですよね。契約書に記載していることを実際の作業に組み入れるには、作業手順書・マニュアルなどにして、現場に落とし、日常作業に組み入れることが重要です。

④ 契約書の内容は忘れてしまう:上記③のように、現場の作業に組み入れられればいいのですが、契約書に何が書いてあるか等覚えていますか?きちんと覚えている人などいません。私は、結構契約書を作ることが多いのですが、過去に作成した契約のデータベースを持っていますから、契約書は、「copy & paste」で作成しています。従って、昨日作成した契約書の内容もあまり覚えていません。契約書を書いている人で、それぐらいですから、読んで理解して、きちんと覚えている人は、殆どいないのではないでしょうか。

まあ、これぐらいが契約書の限界でしょうか・
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2 コメント

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Unknown (Uk)
2015-10-17 09:15:15
いつも勉強にさせて頂いてます。

>真水の部分はのれんの分ですから、それ以外は行ってこいのぶんですね。

この表現が良くわからないのですが、アセットディールで譲渡対象となる資産負債の金額を定めて、ネッティングして差分(のれん)を送金するのが実務なのでしょうか。
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Unknown (まさる)
2015-10-17 10:39:00
事業譲渡で事業譲受人が事業譲渡人に支払う対価の金額は、「譲渡資産+のれんの金額-承継負債」になります。のれんの金額は事前に決めます。譲渡資産・負債に流動資産・負債が含まれることが多いですね。
譲渡資産に棚卸資産が含まれている場合は、譲渡日の前日最終の金額です。従い、例えば事業譲渡の対価の金額は、例えば譲渡日が10月1日なら、10月中下旬にならないと確定できません。真水というのは手抜き表現ですね。のれんの部分が利益と言いたかったのです。譲渡資産負債は、10月1日の譲渡人のBSからはなくなりますが、この分は利益ではないですね。
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