まりっぺのお気楽読書

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『光ほのか』最後に見せた悲しみ

2009-12-04 02:09:57 | フランスの作家
DOUCE LUMIERE 
1937年 マルグリット・オード

私は作家の生活状況や心理状態を顧みない読者ではありますが
オードが亡くなる直前に書き上げたというこの一冊は
死を前にした彼女の暗澹たる気持ちが表れているような気がしてなりません。

『孤児マリー』『マリーの仕事部屋』
両親を早く亡くしたマリーの、少女から女性へを描いた物語でした。
主人公は苦境に立ち向かうタイプの女性ではありませんが
軽やかに、しなやかに人生を生き抜いている印象がありました。

『光ほのか』の主人公も同じような境遇の、同じような性格の女性のようなのに
なにかが違う気がする…

主人公エグランティヌ “ ほのか ” は両親を亡くして祖父に引き取られた少女です。
祖父は彼女が生まれたことで、息子の嫁、息子、妻が死んでしまったと思って
孫娘を憎んでいます。
学校に行くようになると、おとなしいせいで皆からいじめられました。

でも実は彼女はまったく寂しくはありませんでした。
乳母をしてくれたクラリッスおばさん、犬のトゥー坊がそばにいましたし
たったひとりの親友マルグリットもいました。
それに子供の頃から一緒に遊んでいたノエルと愛し合うようにもなり
ついには結婚の約束もしたのです。

けれど祖父が亡くなり、悪い噂のせいでノエルの心が離れていき
クラリッスおばさんが亡くなり、トゥー坊まで死んでしまって
ひとりぼっちのエグランティヌはパリへ出ます。

ここから、はしょりますけど…
結局エグランティヌはノエルのことを愛し続けて結婚をしないの。
パリでの20年来の隣人で、妻の悲しい思い出を持つジャックとはお互いを理解し合い
身も心もひとつになるのに、ふたりが愛しているのは別の人なんですよね。

もう、一緒になっちゃえばいいじゃないの! と私なら思います。
たぶん読んだ人の半分ぐらいはそう思うんじゃないでしょうか?

でもそうはいかないうちに、エグランティヌにもジャックにも
不幸が… どんどん不幸が…

マリーものと同じような物語でありながら、この物語後半に圧倒的に漂う虚無感。
これをオードの心情と言わずしてなんと言いましょう?
やり残した、できなかった様々な出来事が胸をよぎったのでしょうか?
味わうことができなかった家族の愛や、叶わなかった恋を思い出したのでしょうか?
決して幸せではなかった人生を憂いでいたとは思いたくありませんが…

でも、オードは最後まで慈悲深い心の澄んだ女性だったそうですよ。
それは主人公エグランティヌの人柄にも、とてもよく表れています。

あと8ヶ月、刷り上がった本が書店に並ぶまで生きていられれば良かったのに、と
思わずにはいられませんが、万事に控えめなオードらしい逝き方だったのかもしれませんね。

光ほのか  新潮社


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