”LE MYSTERE JAZZ DE TOMBOUCTOU ”
1977年、マリの国営レーベルに残されたレア音源とのこと。ともかくタイトルが素敵ではないか。サハラ砂漠の中のミステリアスな歴史を秘めた交易都市チンブクトゥの、ミステリアスな旋律。
長い長い時の流れと吹きすさぶ風の中で乾ききった風景を捉えた、詩情溢れるジャケ写真が非常に味わい深く、これを眺めているだけでも心ときめくものがある。
演奏ではまず、軽くエコーを伴い、カラカラと鳴り渡るギターの神秘的なプレイが印象に残る。それはサハラ砂漠からの風にさらされながら歴史を刻んできたチンブクトゥの人々の遠い日々から木霊してくるような、深い響きを伝えてくる。
そしてニジェール川の雄大な流れを想起させるワイルドでスケールのでかいホーン・セクションの響き。民謡調の嗄れた歌声は、神話の登場人物たちの呟きにも聞こえる。
熱砂のただ中で謎を秘めて佇む伝説の都からの、遥かな便り。あえて、腹立たしいほどクソ暑い夏の日に耳を傾けてみる。子供の頃に読みふけった、もうストーリーも忘れてしまった冒険小説の一場面が眩しい陽光の下をしばし漂い、そして消えて行った。