”Hello Young Lovers ”by Sparks
スパークスというバンドは好きだったなあ。70年代初めに、後のテクノの先取りの如くにピコピコしたビートを前面に押し出し、また、かのフレディ・マーキュリーにまで影響を与えたという”オペラ風歌唱法のロックへの導入”などなど奇矯な試みをいろいろかまして、変なもの好きな当方を大いに楽しませてくれたのだった。
74年作の「Kimono My House 」に始まり、「Propaganda 」「Indiscreet 」と繰り出された三作のアルバムあたりは、これはもう文句なしに傑作であり、今聴いても十分に斬新なものがある。
アメリカ出身のくせに音の手触りがまるでイギリスっぽくて、成功を掴んだのもイギリスに活動の場を移してから、ってのも彼ららしい皮肉な話だ。
バンドと言っても、ようするにロンとラッセルのメイル兄弟二人のユニットと言っていいだろう。
いかにもかっこいいロック歌手である弟のラッセルと、時代錯誤のチャップリン風チョビ髭を生やしたキーボードのロンの取り合わせも、人を食ったビジュアルだった。そうそう、初めてスパークスをテレビで見たジョン・レノンがロンを指し、「おい、ヒットラーがテレビに出ているぞ!」と大喜びだったなんて逸話もあった。
あっと、冒頭で「好きだった」とか過去形で行ってしまったけどこのバンド、いまだ現役で活躍中で、ついさっき、昨年出たばかりの新作、”Hello Young Lovers ”を聞いたばかり。
このところロックそのものに興味を失っていた当方、ほんの気まぐれで久しぶりに聞いてみたスパークスのその新作アルバムが、素晴らしい出来だったんで嬉しくなって、この文章を書き始めたんでした。「ずっと新作にもチェックを入れずに来てしまって、すまん!」ってな彼らへの謝罪の意味も込めまして。
で、”Hello Young Lovers ”なんだけど、デビュー当時から追求していたオペラとロックの融合の道をますます究めている。もう、よくもこんなにややこしい作業をこなす気になったものだなと、多重録音されたボーカルやキーボードの音の嵐に呆れてしまった次第。デビューから30年以上も経っても、ロン&ラッセルの創作意欲、全然衰えていないのなあ。
ややこしく入り組んだ音楽性ではあるんだけど、歌詞の方は短い言葉を執拗に繰り返す、むしろ原始的なエネルギーの演出があからさまだ。入り組んだ音楽性。呪術的に反復される言葉たち。
その辺りに、高度の洗練の先に不意に開けた原始の輝き、みたいな新鮮な衝撃があり、どぎまぎさせられる。
なんかねえ、ロックによって変形されたオペラがバリ島のケチャみたいな響きを帯びて聞こえてくるんだよねえ。これは深いや。
一つだけ残念なこと。ロンのちょび髭が細長くなっていて、あのチャップリン風(そしてヒットラー風)の時代錯誤の戦前ヨーロッパ調のものでなくなっていたこと。これは元に戻して欲しいなあ。その上に蝶ネクタイなんか締めて。これじゃ、そこらの小洒落たホテルの支配人だよ。