”Emile Campagne.”
秋らしい音楽と言えば、そうだ、Emile Campagne がいたなあと思い出し、さっそく検索をかけたんだけど引っかかってきた情報は皆無に近かったんで、唖然としてしまったのであります。
そんなに無名の人だったのかぁ・・・一つだけ彼を扱ったサイトが見つかったのだけれど、フランス語だったんで残念ながら読めず。
それにしても写真の一枚さえ見つからないとは。仕方がない、Yahoo!オークションに”the_fifth_heaven ”という人が Emile のCDを出品しておられたので、そこにアップされていたジャケ写真を上に無断流用させていただきました、すみません、the_fifth_heaven さん。
と言うわけで。
Emile Campagneは、フランス系カナダ人のトラッド・シンガーです。遠い昔にカナダの地に移民してきたフランス系の人々が新大陸に持ち込んだ民謡の数々を歌い継ぐ道を歌手として選んだ人。
2000年に発表されたこのアルバムが彼にとってのデビュ-盤にあたるらしいのだけれど、ジャケ写真を見ると、もうこの時点で相当のおじいさんであります。新人歌手、なんて歳ではない。これは長い不遇の時期を過ごしたと言うより、レコードを出すなんてはじめから考えもしなかった田舎の民謡歌手だったのでしょう。
とにかくまるで歌手の年齢に合わせたかのように、いや実際そうなのでしょう、音の作りもジャケの装丁も、すべてがセピア色に、追憶の色に染め上げられたアルバムです。
Emile の歌手以外の、つまり本業は農民だったのでしょう。内ジャケには広大なカナダの草原を行く農耕作業車が居並び、積み上げられた牧草の具合を見る、いかにも年老いた農園主然としたEmile の姿があります。
収められた歌は非常にシンプルな伴奏に乗って歌われる、どれも非常にゆったりとしたリズムの、美しいメロディのものばかり。
そうです、時は過ぎ行き、すべてのドラマはおおかた終幕を迎えてしまった。もう何も急ぐ必要なんかない。
年老いたEmile は、地平線に沈み行く夕陽を眺めながら、この大地の上でともに人生を送り、そして今はもうこの世にはいない友人たちや、あるいは遠い昔にこの土地に生きた先祖たちの代わりに、彼の記憶の中に生きる彼の血族の歌を静かに、噛み締めるようにただ歌うだけで良いのです。
晩秋。一年の農作業の終わりとしての、そして人生そのものの”収穫の時”を二重写しで感じさせるアルバムです。取り入れられた作物の豊饒の喜びと、”終わりの時”がやって来た寂しさと。
これはもう、出来が言いの悪いのと言う余地も無いような、こちらもただ静かな気持ちで受け入れたい、そんなアルバムであります。
余談ではありますが・・・Emile の声ってちょっと、あの岡田真澄氏に似ているんだよね。
だからこうして聞いているとEmile と、昨年でしたか亡くなってしまったファンファン氏の思い出とが、なんだかゴタマゼとなって押し寄せてきて、なんとも言えない気分になるのでした。