ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

国境線を越える時

2006-09-02 04:27:50 | 北アメリカ


 昨日、”フレディ・フェンダーの”なんて書いたけど、むしろそのフェンダーから話をはじめるべきだったかも。社会的弱者のコミュニティに機能する大衆音楽シーンにおいては、女性歌手はひたすら力強く、男性歌手はひたすら弱々しい歌声を響かせる傾向があるって話ですが。その、ヘナヘナ声の帝王の一人について。

 アメリカに、テックス・メックスという音楽がありまして。文字通りといいますか、アメリカのテキサス州と南のメキシコ、この国境線上に両国の文化が激突、とか言うよりむしろぼんやりといい加減に交じり合って出来上がっている混血音楽であります。子供の頃に好きだった”西部劇映画”において、賞金稼ぎに追われたお尋ね者が国境線を越える、そんな舞台に非常に似つかわしい音楽であります。

 そのテックス・メックスなる音楽を代表する歌手、フレディ・フェンダーも、メキシコとの国境近くにあるテキサスのサン・ベニートという街に生まれたラテン系の血筋のものだそうで。芸名のフェンダーがギターのメイカー名の”フェンダー”に起因するなんて、まさにテックス・メックスらしいB級っぽい逸話で、嬉しくなります。

 60年代に「Wasted Days and Wasted Nights」なる大ヒット曲を出したものの、その後、ドラッグ所持で逮捕されるなど、国境線上における怪しげな大衆音楽のヒーローらしい(?)エピソードを挟みつつ、75年、名バラード・ナンバー、「Before the Next Teardrop Falls」で、歌手としての地位を確立します。

 彼のヒット曲で特徴的なのが、一曲の中に英語詞とスペイン語詞が同居するあたり。1コーラス目を英語で、2コーラス目をスペイン語で歌い、最後に英語詞に戻って歌い終えるのが定番のようで。つまりは両方の言葉を使用する人々の間で営業している歌手である事の証明でありますな。

 この、英語からスペイン語に切り替わる瞬間に一瞬漂う妖しさがたまりません。
 先に述べた”国境線のお尋ね者”に象徴される、それまでの所業のすべてが”チャラ”となって消滅してしまう、法律やら人々の記憶やらの途切れるところとしての国境線。ほの暗い運命の先に差す、奇妙な”自由”の光。

 そのようなトワイライト・ゾーンの深部にどっぷりと身を沈め、切々と、まさに涙の雫が滴り落ちるような感傷を込めつつ、英語スペイン語ゴタマゼ状態で歌い上げるバラード。そこに漂う妖しげな祝祭の響きに、不思議に血が騒いでたまらない。
 今日もフレディ・フェンダーの、なにやら頼りない歌声に、安物のワインとか、その種のもので乾杯したいサボテン&砂漠幻想の夜が来るのであります。





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