ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

モザンビークの鰯雲

2007-09-10 22:46:17 | アフリカ


 ”Yellela”by Eyuphuro

 ケニアからタンザニアへ。そしてモザンビーク。ひねもすのたりのインド洋を左手に見ながら、アフリカ東海岸を南に向う。名所も多い。広大なる大地を切り裂く大地溝帯。人類発祥の地。キリマンジャロの頂上の豹の死体。
 それより何より。このあたりは”アフリカン・ポップスの微妙なところ”が気になるファンには見逃せないところ。

 遥か西アフリカでは、ユッスーやサリフの活躍で世界の最前線に躍り出た独自のポップスが躍動し、赤道直下のコンゴでは”アフリカンポップス総本山”の自負に溢れた洒落者のバンドマン連中が、天の神々も踊り倒せとオダを挙げる。
 冒頭に挙げた東アフリカの国々には、そんな極彩色のアフリカ大陸ポップス事情の、いわば裏通り、あるいはカウンター・カルチャーといった趣をそこはかとなく漂わせている。

 東アフリカとは古くから交易によって経済的、文化的に関係の深いアラブ世界。さらに大洋を挟んで対峙する南アジア諸国と蒼古より構成する”インド洋文化圏”なるもの。そして、そのど真ん中に呪物のように屹立する不思議の島、マダガスカル。
 これらの文化的背景が玄妙に絡み合い、独特の味を醸し出す東アフリカのポップス。古くから成立していた海洋性のアフリカ風アラビアン・ポップスであるターラブもあり、どこからどうして生まれ出たのかさっぱり分からぬ新しいサウンドもあり。興味は尽きない。

 そんな東アフリカはモザンビークからの、もうベテランと言っていいのかも知れないバンドが、新譜を出していた。これが2ndであり、と言っても前作、デビュー作が出たのは80年代というから、ほぼ20年ぶりのリリースとなる。悠然たるペースであるが、好き好んでそうなったのかは知らない、もちろん。そして残念ながら当方、前作は聞いていないのだが。

 男女一名ずつのボーカリストと、パーカッションが3名、加えてギターとベース、という編成。
 アフリカ音楽でパーカッション主体のサウンド作り、となると狂熱のリズムの饗宴を連想してしまうが、そこはそれ、だてに海峡を挟んでマダガスカル島が存在している訳ではない。そのサウンドはいかにもアフリカ東海岸のインド洋文化圏ポップス、どこかに潮の香りを感じさせるゆったりとしたノリの複合リズムを聴かせてくれる。

 それはちょうど日本のこの季節を例に取るのがふさわしい。
 まだ夏の暑苦しい太陽は空高く輝いているが、そんな日に、ふと吹き抜ける風一陣。そいつには明らかな秋の気配がしていて、いつの間にか忍び入っていた季節の変化に驚かされる、そんな、シンと静まった空気の固まりを忍ばせた夏の終わりの大気の手触り。
 そんな陰影が、マダガスカル島周辺ポップス(と、仮に呼んでみようか)には潜んでいる。
 その静けさは、どこからやって来たのかいつも不思議に思う、これまたこの地域のポップス特有の哀感を秘めたメロディ・ラインと微妙に響きあい、独特の世界を形作っている。

 光と影の微妙な混交を描きつつ、バンドの音は流れてゆく。ほのかにイスラム色も漂わせつつ、しみじみと哀感漂う女性歌手Zenaの歌声と、どちらかといえば飄々とした個性で歌い流す男性歌手、Issufo。

 二人の歌声の素朴さのわりに、歌詞の英語対訳を読んでみると、いわゆる”メッセージ色”の濃い内容が、やや意外である。
 アフリカの過酷な現実が、当然のものとしてそのような歌詞を歌わせているのか、それとも結成当時から国際舞台で活躍していたバンドの立場から、そのような歌が増えてしまったのだろうか。このあたりは、余所者があれこれ言えることでもないようだ。

 いずれにせよ、よく出来たアルバムで、なかなかの収穫だなと思うのだが、苦言一つ。男女二人のボーカリストはともにシンガー・ソングライターなのであって、自作の歌を交互にこのアルバムに収めているのだが、両者の個性、あんまり響きあっていないような気がする。

 ユッスー等、西アフリカの音に影響を受けたのではないかと思われる女性歌手、Zenaの音楽性と、コンゴあたりの音楽の影響もうかがえる昔ながらのアフリカン・ポップスのありようを受け継ぐスタイルの持ち主、そしてデビュー・アルバムからのメンバーであるIssufoの音楽世界とは、ちょっとズレがありはしないかなあ?
 Zenaがバンドを離れてソロアルバムを世に問い、Issufoがバンドの主導権を握るのがベストではないかと思う。やや社会派色の強いZenaの歌は、元来、飄々としたこのバンドの個性とはちょっと違うような気がする。まあ、この辺は趣味の問題、別の意見もあろうけれども。


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