ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

イ・スヨンと秋を想う

2011-07-03 05:24:11 | アジア

 ”THE COLORS OF MY LIFE”by LeeSooYoung

 金曜日の突然の豪雨で被害を受けられた方もおられるかと思うが、私もその一人。自宅の駐車場が、気がつけば豪雨の中で水没していた。
 もともと若干の落ち葉や泥が溜まりはしていた駐車場の排水口が、大量の降水量に対処出来なくなり、排水不能となっていたのだ。あっと、青空駐車場じゃなく、一応は建物の一階にあるんだよ。ただ、その入り口がやや地面から下がっていて、半地下にある駐車場という感じ。その斜めの入り口から、道路に溜まった雨水が一気に流れ込んだのだ。

 いやあ、水に浸かっている車、なんて風景はニュース番組等でこのところ見慣れたものとなっていたのだが、その車が自分のもの、という経験をしようとは。何より情けないのは、同じ場所に駐車していた、というかさせてやっていた妹のダンナ(つまり義弟)の車とその娘(つまり私のメイ)の車はさっさとほかの駐車場所に逃げ出していたこと。おい、現場の状況をなんとかしようとはおもわなかったのか。
 なんて言っていても仕方がないので、今にも水位がタイヤから車体に至らんとしている我が車を「大丈夫か、おい?」と横目で見ながら、私は豪雨の中ずぶぬれで、排水口に詰まったゴミのタグイを掘り出し、なんとか復旧作業を行なったのであった。雨が上がった夕方頃には、どうにか水も掃けて行ったのだが。

 それから、遅くなってしまったが月変わりの毎度の仕事だ。昨日集めた家賃を取りまとめ、銀行に入金に行き、ついでに業者に頼んだ仕事の工賃など振り込む。で、家に帰りついて、ああ今日は参った参ったとクーラーの直下で寝転んでテレビを見ていたらいつの間にか寝入っていて、目が覚めたら風邪を引いていたという次第だ。えーいくそ。
 さらには、これも先日来、歯茎の辺りに傷が出来ていて、これが膿んでしまって痛い。医師に見せたが何の病気かわからないようで、とりあえず抗生物質らしきものを呑み、歯の消毒を重ねる日々なのである、これで治ればいいのだが。それにしても何の病気か分からないってのも困るね。弱り目に祟り目って奴か。えーいくそったれめ。

 という訳で、イ・スヨン。1979年ソウルの出身で、韓国のバラードの女王といわれる。まあ、彼女と上の文章とどういう関係があるやら分からないが、ここで聴きたくなってしまったんだからしょうがない。

 彼女の、小学校2年生の時に父親を、高校3年生の時に母親を交通事故で失い、妹と弟の生活を支えつつ、自身の歌手への夢をかなえた、なんて生い立ちは日本人好みか?その、今にも折れそうな可憐な歌声と、彼女が好んで歌う感傷的な曲調とが、その不幸色の少女時代の出来事といい具合に重なり合い、薄幸の美女みたいなイメージが出来上がっている。
 が、むしろ私は、2004年に日本進出を考え、「成功するまで韓国に帰らない」なんて宣言しながら、その日本デビュー曲がオリコン100位にも入れず失敗に終わると、とっとと韓国に帰ってしまった、なんてエピソードのほうが好みだが。

 実際彼女は結構な日本びいきみたいで、日本の曲を何曲もカバーしたり、CDやプロモーションビデオを日本で製作することも多く、またその内容、時に日本に対する憧れが正面に出ていて、そりゃ日本の歌曲を歌うことさえ禁じられていた時代はもう過去のものとはいえ、まだまだ反日感情の強い韓国民も多かろうに大丈夫なのかと気になったものだ。どうやら、「そんな事、どうというものでもない」というのが現実のようだが。

 今、ここで鳴っているアルバム、”THE COLORS OF MY LIFE”は2004年09月に発表された、第6集である。この時点で、もうすでに彼女はナントカ大賞、ナントカ歌謡賞のタグいはあらかた受賞していて、いわば功成り名を遂げた状態にある。それが証拠にこの盤だって特殊ケースに入ったライブDVDとの2枚組みという凝った仕様になっている。なんたって「不況知らずの女性歌手」と言われて、2000年代に入って不調だった韓国歌謡曲界を支えた人でもある。
 実はこのアルバムが、私が聴いたはじめてのイ・スヨンの作品だった。カラーズ・オブ、なんてタイトルにあるから、カラフルな内容かと想像したのだが、聴こえてきたのは、やや灰色がかった白い霧みたいなものが経ちこめてただ続く、シンと静まり返った世界だった。

 静かにうつむき、過去を追憶するマイナー・キイのバラードがあり、時に差し挟まれるボサノバものやファンクものも、メジャーセブンス・コードのモヤモヤとした響きのうちに、霧に巻かれた内省の世界に沈んでいってしまう。
 今年も、もうやってきてしまったクソ暑さの中で、イ・スヨンの歌を聴きながら考える。なんとかこの、夏などという下品な季節の存在しない世界に逃げ出す方法はないものか。永遠に続く晩秋の中で、イ・スヨンの歌声の響く霧の中で踏み迷っていたいものだ、などと。