ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ユーラシア大陸奥の細道

2011-07-13 05:05:34 | ヨーロッパ

 ”Zhyli - Byli”by Sergey Starostin

 ロシアの、前衛ジャズ系民俗音楽家とでも紹介すればいいのか、独自の活動を続ける、セルゲイ・スタロスチンの、今年出たばかりの作品である。とはいっても、音そのものは2006年のライブからのようだ。
 セルゲイは以前、この場で取り上げた事がある、同じく民俗音楽を独自のやり方で今日化している歌い手であるInna Zhelannayaなどと行動をともにし、一時は同じバンド(Farlanders)でやっていたこともある。おそらくこのバンド人脈あたりが、ロシアの民謡最前線なのだろう。

 この盤における音楽は、無伴奏か、ほぼ無伴奏に近い状態のうちに渋いボーカルが殷々と響き渡る、といった形で進んで行く。歌声に静かに寄りそう、前衛ジャズ色濃い管楽器の演奏。
 そもそも、参加メンバーが女性二人のコーラス(内、一人がハーディガーディを担当)と、木管楽器奏者が一人、それにセルゲイ自身のボーカルと同じく木管楽器、この4人だけであって、そこにはリズムセクションもコード楽器も存在しない。
 歌われる曲たちは、マイナー・キイのうら寂しいメロディ連発である。そこにイメージとしてたち現れてくるのは、曇り空の下で果てしなく広がる枯れ果てた大地と、吹き抜ける風、といったうら寂しい風景。
 なにやらワビサビの世界めいて、”ロシア奥の細道”なんて副題も可能かと思われる。

 なるほど、ロシアの大地はこんな感じでモンゴルの草原まで続いているのだな、などと分かったような気分で頷いてみたり。ともかく、ロシアっぽい翳りを含んだメロディと、やたらと隙間の多い演奏の向こうに、抱えきれないほどの寂寥が薄暮のうちでたゆたい揺れ動く。ユーラシア大陸の裏通りを行く、孤独な旅人の足音が響いている。